こんにちは。
牛山です。
本日は、2010年度慶應大学医学部の問題解説です。
【1】問題概要
悩む医師に対するアドバイスを行うという問題が出題されています。
【2】出題意図
「あなたなら、どのようにアドバイスを行いますか」という問題は、慶應大学文学部でも出題されたことがあります。
なぜこのような問題が作られるのでしょうか。大筋では、医療従事者としての適正を見られていると考えるべきでしょう。
学力があることも大切ですが、学力以外の人間力のようなものが、医療従事者には、求められることが珍しくありません。
【3】考え方
(1) 間接的に評価されるポイント
概ね、以下の様な点が間接的に評価されることが予想されます。
A:EQ(感情指数)
B:人間性
C:アドバイスの適切さ(問題解決能力)
(2) EQ(感情指数)
この手の問題でテストをすると、受験者のEQが露骨に分かります。人に接する時に、何を大事にしており、どのように相手の感情に配慮することができるかが分かる問題になっています。その点を見られていることを考慮に入れて、文章を作ることを考えましょう。
特に、アドバイスをする際に重要なことは、相手の価値観です。人によって価値観は違います。
その価値観に配慮せずに、ロジカルに問題を整理し始めると、『あなたが言うことは正論ですが・・・。』という状態になり始めます。
正論とは、感情的に納得出来ない論理のことです。仮に論理的に正しくとも人は感情的に受け入れられない考えに対しては否定的な考えを持ちます。
「合理的に今のあなたの状況を考えると、●●するのがいいでしょう。」
というアドバイスは、実効性を持たないことがあるということです。このような実効性の無いアドバイスしかできない医師になってしまうと、医療の質も下がってしまうことが予想されます。
(3) 人間性
医師の力は、学力だけではありません。人を率いる医師は、人間的にも魅力のある人でしょう。性格は個性ですのでどのような性格の方が上であるとか、下であるなどということはできません。
しかしながら、人として軽蔑される性質や性格は存在します。
この手の問題については、性格を類型化して考えることも有効です。(ここは後ほど細かいこともお話します。)
人間性の問題は好き嫌いの問題でもあります。
したがって、時には誠実な人でも嫌われることはあります。
美辞麗句を並べすぎれば、言っていることは薄っぺらくなるでしょうし、信用が傷つくこともあるでしょう。
ポジティブな人に対して、「綺麗ですね」と言えば、そのまま言葉を受け取りますが、ネガティブな人に対して「綺麗ですね」と言えば、(お世辞を言って、何か裏でもあるんじゃないか)と勘ぐります。
(4) アドバイスの適切さ(問題解決能力)
この手の問題では、あなたが行うアドバイスが的を得ていることも大切です。相手の感情に配慮するだけでは、アドバイスは有効に機能しません。
したがって多くのケースで、アドバイスというものは、相手が聞きたくないことや耳に痛いことを述べる必要が出てきます。
例えば、明らかに勉強の時間配分を間違っている受験生にアドバイスをする際に、
「今とても君はがんばっている」
と繰り返したところで、勉強時間が不足しているのであれば、その受験生は不合格になってしまうでしょう。
状況を事実に基づいて分析し、なぜその問題が発生しているのかについて、仮説を述べ、その問題を解決する方向性案を提案するといった最低限のプロセスを経たアドバイスは大切です。
【4】解き方
(1) 性格の類型を考察する
まず実行してほしいことは、アドバイスをする相手の性格タイプを把握することです。以下の様な性格類型があると言われています。
A:熱血タイプ
B:冷血タイプ
C:優柔不断タイプ
D:ウツ型タイプ
以下のマトリックスは、本田健氏が唱える人間の性格別類型です。
※以下のマトリックスは、スマートフォンでは崩れて見える可能性があります。
(ポジティブ)
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領域A | C領域
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自立 ←--------------------→ 依存
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領域B | D領域
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(ネガティブ)
ここまでにご紹介してきたように、性格別に感情の反応が違います。ここに気をつけて、文章を設計することが大切です。
また、特に指定されていない場合は、中間をイメージしましょう。
(2) 心をイメージする
相手に共感できないとしても、一応相手の心をイメージすることは大切です。相手の心をイメージした上で、感情的摩擦を最小限にすることを考えます。
別の言い方をすれば、相手の心によりそうということです。
この時に相手との距離感をイメージすることも大切です。一番いいのは、相手の反応を見ながら、話を続けていくことなのですが、ここでは、文章テストですからそれはできません。
そこで、残念ながら一方的に話しかけるように書くしかありません。
疑問形を適宜入れるようにすれば、決めつけている印象を和らげることができるでしょう。
(3) 注意点
あなたができることを見せていかなければ、あなたにはその能力が無いと判断されます。ここには注意してください。何らかの理由があって、あえて言わないことや書かないことについては、評価の対象にはなりません。
ですから、表現されていないことは、能力が無い部分と評価されるリスクがあるということです。
(4) 状況を分析する
アドバイスをする際には、状況を分析することが大切です。まず状況を事実にもとづいて分析します。
その上で、全体の因子、問題発生の構造、原理原則、理論等を総合的に考察して、対策案を立案します。
この時に対策案は、一つではありません。複数の対策案があるのが普通です。
この対策案をいくつかの指標に基づいて、絞り込みます。(発散と集約などと言います。)
このあたりの詳しい手順については、拙著『小論文の教科書』を読んでください。事例つきで詳しい内容が掲載されています。
(5) 対策案を提案する
最後に相手の感情に配慮しながら、対策案を提案します。
注意点は、原因がこれこれなので、こうすればいいと述べないことです。
何が原因かは、仮説に過ぎませんのでその仮説が外れていた場合は、対策がうまく機能しません。
したがってまずは事実に基づいた状況分析が必要です。その上で、限られた時間の中で、状況整理を行うというステップが大切です。
このようにご紹介すると極めて合理的な内容をアドバイスするのかな・・・
と感じるかもしれませんが、アドバイスを行う際には、話し言葉で優しく話しかける形で行い、無骨な合理的アドバイスをしただけにならないように気をつけるといいでしょう。