牛山です。
本日は、2014年度の慶應大学文学部の問題解説です。(推薦入試)
【1】概要
(1) テーマ
今回の問題のテーマはコミュニケーション能力でした。戯曲では、対話と会話を区別することが大切だとの筆者の主張が、様々な事例を通して解説された課題文が出題されています。
(2) 問題構成
問題構成は例年通り、以下のような形です。設問1:説明問題
設問2:論述問題
設問3:英訳問題
設問4:英訳問題
英作文と小論文がセットになったような問題です。
【2】解き方
(1) やりにくさ
今回の問題を解いた人はやや、やりにくさを感じた人が多かったかもしれません。一般的な説明問題は、課題文の中から解答要素となるキーワードを拾い出し組み立て直すことで、説明文を作ることができます。
さらに、多くのケースでは、課題文の該当箇所の抜出しを行ってもそれなりに説明できてしまうことが多いものです。
ところが今回の問題はそれができない問題になっています。
延々と続く課題文の、ポイントを、順番に書きだすのではなく、時には順番を入れ替えて、説明文を作ることが要求されます。
理解力を試すにはとてもいい問題です。
(2) 二つの対策
この手の問題を解くには、読解力の向上(読解スピードと、理解度の向上)と、内容把握テクニックが有効です。読解力の向上には「理解速読」と私が読んでいるテクニックが有効です。
今回解答例を作る際に、私自身もこの手法を用いました。
内容を把握するには、表組みが有効です。
(3) 理解速読
拙著『速読暗記勉強法』(日本実業出版)で解説した速読方法の中で、理解に特化した読解法をご紹介しています。文学部の場合は純粋な評論文が出題されないこともありますので、直接有効ではないと感じる人もいるかもしれませんが、実質的にはできてしまいます。
論旨の流れを把握し、ほとんど時間をかけることなく、二度読み、三度読みができます。
当然繰り返せば繰り返すほど、理解度は向上しますので、試験会場での理解度が増します。
繰り返すと言っても、二度目に読み直す時間は今回のやや長文でも、実質30秒程度です。
時間はかかりません。
この手のテクニックは、長文になればなるほど有効です。なぜならば、他の受験生は、長文を処理することができず、読むだけで精いっぱいになっているからです。
また、言語は変わっても言葉の理解方式は変わりませんので、英語などの読解力向上にも役立ちます。
30秒程度というと、(そんなに速く読みなおすことができるはずがない)と感じるかもしれませんが、トントンと目線をマーキング部分に落としていく形になるので、それが実質できる形になります。詳しくは上記書籍をお読みください。
ただ、慣れが必要ですし、要領がいい人と、そうではない人で、できる度合いは変わってきます。
(4) 表組み
これはすぐに取り入れてもらえるテクニックです。今回の問題では、会話と対話の違いについて、説明することを求められています。
従ってまずは実質的な違いがどこにあるのかを抑えることが大切です。
・冗長率
・役割
・コミュニケーション能力
・従来の国語教育
・長所
・著者を批判する人の戯曲
これらについて、会話と対話のそれぞれで、どのような違いがあるかを表組みしてみましょう。
(5) 最後に
今回の問題では、違いを説明することを純粋に求められているわけではありません。問題では、
戯曲を書く上で、最も重要なことは、会話と対話を書くことだという考えについて、筆者はどのように考えているかということを聞かれています。
従って単に違いを説明するだけでは不十分です。
筆者の問題意識はどこにあり、なぜなのかということを説明しなければなりません。
「対話」には、「会話」には無い、重要な長所やインパクトがあります。
それは、「対話の原理」と著者が述べている部分です。
演劇が人の心を打つ時、その「対話の原理」と呼ぶべき、人の価値観の変遷等から生まれる物語のダイナミズムがあります。
このような、「単なる会話」には存在しない「対話」が持つ大きな力があるということが、大前提にあるからこそ「対話」と「会話」を区別することが重要になるわけですね。
従って答案構成の最初の方に、この大前提を置いてもOKです。
今回の問題の難易度がやや高いのはこの後に、「冗長率」が「対話」や「会話」とどのような関係にあるのかを端的に示しつつ、最終結論に至る論理を追う説明文を設計することを求められている点です。
また、課題文では著者は批判された経験があるようですが、その批判がなぜ的外れなのかについても、この説明文を作る過程で分かるはずです。
つまり、著者を批判している人達は、近代演劇をある意味では短絡的に捉えており、著者が説く「対話の原理」を無視し、「対話の構造」を戯曲の中に見出すことができていないということです。
「会話」ではなく、「対話」のレベルになった時、間投詞が多用され、冗長率が長くなります。
冗長率が長いか短いかが重要ではなく冗長率を操作することが、コミュニケーションの神髄であると著者は説きます。
冗長率が高いことを批判する人達は、会話のような演劇しか見たことが無かったのであろうと著者は述べ、ゆえに日本にはいまだ、本当の近代演劇は成立していないとの見解に達します。
この一連の関係性を答案にまとめることが大切です。
いかがだったでしょうか。
思うように、問題を解くことができたでしょうか。
【2】ご案内
(1) その他の解答例と解説
さらに詳しい解答例や解説は、動画の授業も含め塾で行っています。今回の問題については、総合考査Ⅱの解答例、解説、英訳問題の解答例、解説もあります。
文学部については過去問題約20年分近くを扱い、解答例を作成しています。
『慶應大学文学部 推薦入試』の小論文対策のみ
⇒http://www.skilladviser.com/base/sixyouron/sr-2/ao-presentation/suisen-bun_sr.html
「慶應クラス」
⇒http://www.skilladviser.com/base/sixyouron/sr-2/keiou-crass.html
(2) 読解力を引き上げたい方へ
短期間で読解力を引き上げたい方へオススメの講座はこちらです。⇒http://www.skilladviser.com/base/sokudoku-rikai.html
【3】編集後記
そう言われてみれば、偉大な物語にはほとんどのケースで今回の課題文の中で説明されている「対話の原理」があるように思います。ただ単に面白い物語では、多くの人を惹きつけることはできませんね。