このページでは、メルマガで流した慶應大学の文系学部の小論文問題の解説を掲載しています。
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2016年度慶應大学看護医療学部 小論文過去問題解説
こんにちは。
牛山です。
本日は、2016年度 慶應大学看護医療学部小論文過去問題解説です。
今回の問題は次のようなものです。問題1は説明問題です。
問題1
下線部①「物事の本質を見抜く観察の目」とはどのようなことを指していると考えられるか、本文の内容を参考に100字以内で述べなさい。
説明問題は、課題文のキー概念を接合するように文章を編むのが一般的な解き方です。
ただし、今回の問題では、重要なキー概念を拾うようにはなっていないので、その場で考える形となります。
解答例を紹介します。
問題1 解答例
福沢はビールは多人数、日本酒は一人で飲まれていることについて、酒という概念を統合して考察した上で、それぞれの特殊性から社交性と非社交性という概念を抽出した。観察の目とはこの優れた洞察を指している。/p>
それでは、論述問題を見てみましょう。
問題2
下線部②「福沢諭吉のもっていたリベラリズムの思想」とはどのような事か。本文の内容を参考に説明し、それに対するあなたの考えを加えて600字以内で述べなさい。
リベラリズムは自由主義です。
この問題のポイントは、福沢諭吉の持っていたリベラリズムの思想を答案に反映させることです。
言うまでもなく、課題文には、ピンポイントでその点を言語化している部位がありません。
エピソードと著者の考察を書いた上で、察してください・・・ということになっています。
したがって、一般的なリベラリズム論を書くのではなく、福沢のリベラリズム論を書く必要があります。
ただ、この福沢のリベラリズム論というのは、特段変わったおかしなものというわけではなく、本質的には、リベラリズムの源流にそったものだと考えて良いと思います。
とは言え、そこは説得力のある形で、答案の中で、表現しなければならないということです。
それではどうするのか。
一つの方法として、課題文の重要な部位から、福沢のリベラリズムを導出するというやり方があります。
ただし、その前に、それをあせってやってしまうと、課題文から導出しているという印象も薄れてしまいますので、まず「事実」をさらうのがおすすめです。
つまり、課題文の骨子はこれですよ・・・
と端的に示した上で、問題文の問いを丁寧に扱い、その問いに丁寧に答えていくという流れがよいでしょう。
今回の問題は、何をすることを要求されているのかと言えば、論理のパーツを埋めることを実質的に求められています。
つまり好き勝手に考えればいいものの、本当に何でも好き勝手に持論を展開すればいいのではなく、「課題文と作問者の考察の間にある論理」を、言語化することが求められています。
エピソードの内容からどのように福沢のリベラリズムに話がつながるのかを丁寧に説明していきましょう。
それでは、解答例を紹介します。
問題2 解答例
福沢は、幕府からアメリカに送られる使節団の中にあった階級制の厳しさに強い問題意識を持っていた。課題文では若い水夫の食事があまりにも貧しく、栄養失調と過労から病死したエピソードが紹介されている。福沢は、その後、出世した後にこの無名の水夫のお墓参りをしている。以上の課題文の流れから以下のように考察する。
福沢諭吉の持っていたリベラリズムの思想とはどのようなことか。私は共感を基礎とした道徳感情に基づいた自由思想であると考える。
著者はアダム・スミスの『道徳感情論』を福沢諭吉のエピソードから思い出すと述べている。道徳感情論には、道徳感情の基礎は共感であるというテーゼがある。このテーゼは、人が道徳的な感情を生起するプロセスとして、単に人から知識として「善悪・良い悪い」を学ぶのではなく、共感することから道徳的な感情が生まれているという考えに基づく。共感とは人の痛みを理解する感情、理解しようとする感情である。福沢は、若い水夫が階級制の厳しさゆえに病死したことについて痛みを理解している。福沢は多くの人が持っていない「強い共感性に裏付けられた道徳心」を有していたと考えられる。
福沢がリベラリズムの思想は、言うまでもなく単なる個人の権利を目的とした自由観に基づくものではなく、社会の中で、人々の権利が抑圧されることに対する強い問題意識から生まれる思想であると考えられる。
牛山は道徳や倫理に少し詳しいので、今回のような知識も有していましたが、知らない場合でも、課題文の内容を同じように説明することで、問題を解くことができます。