このページでは、メルマガで流した慶應大学の文系学部の小論文問題の解説を掲載しています。
慶應クラスでは、構造ノートや構造議論チャートを使ってもっと詳しく細かく各学部の過去問解説を動画で行っています。
2015年度慶應大学法学部 小論文過去問題解説
こんにちは。牛山です。
本日は、2015年度 慶應大学法学部の小論文問題解説です。
先日慶應大学の法学部を受験した皆さんはいかがだったでしょうか。今年もやや、やりにくい問題が出題されましたね。
そろそろ、うれしい合格報告がたくさん届き始めています。
【1】問題概要
(1) まずはざっくりと見ていく
今回の問題は、「生物多様性」がテーマの問題でした。
ところが、この課題文を読んでいくと、生物多様性の話がほぼ最後まで展開されるのですが、雲行きがおかしくなってくるんですね。
生物多様性について、何かを言いたいのではなく、「関係価値」について、筆者が何かを言いたがっています。
まずはこの程度にざっくりと把握することが大切です。
その後に、細かい部分を検討していきます。
文章には原則として、必ず中核的な部分が存在します。
筆者が最も言いたいことが存在するということです。
それが何なのかな?・・・
という目線で、文章を見ていくことが大切です。
(2) 読解について
読解については、読解テクニックを用いると、グッと読解の難易度が下がります。
おいおい、読解について、解説するメルマガもシリーズでお届けしていきたいと思います。
(3) 文章の流れ
※受験していない人はここは無視してもらってOKです。
生物多様性
↓
生物多様性という言葉の定義が混沌としてきている。
↓
生物多様性条約
↓
条約の中では、保全と利用という相反する二つの目的が掲げられている。
↓
「利益の公正かつ衡平な配分」という第三の目的が現れる。
↓
グローバルコモンズか、グローバル商品かという問い
↓
市場メカニズムによる保全
↓
生物多様性条約では、誰のものかを問うことを棚上げにしている。経済価値と市場原理に重点を置いて保全と利用を図ろうとしている。
↓
地域社会の役割
↓
地域社会では、経済的価値があるから生物多様性を大切にしてきたのではなく、使用価値があるから。
↓
ところが、外部者は交換価値にばかり注目する。(過小評価だ)
↓
つながることに価値がある。
↓
保全や利用の議論の前に、別の価値を生物多様性に探る必要がある。
それは、関係価値とでも呼ぶべきものである。
↓
今日のグローバル経済における交換価値の枠組みでは、生産者、消費者が分断されてしまっているが、別の価値(関係価値)によって、その距離を縮めようという考えである。
(4) 読解のポイント
今回の問題は、文章だけを読んでも、理解しにくいでしょうね。
文章を読んだ後に、自分の頭で考えなければ理解しにくい内容の文章があえて出題されています。
これは、最近の法学部の特徴かもしれませんね。
理解力を試す・・・というよりも、正確に言えば、考えて理解する能力を
試す・・・と言ってもいいかもしれません。
内容を理解するコツは、
筆者が批判しているものを把握するように、文章を読んでいくことです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
裏側から説明している文章に注目します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
例えば、
Aという事象を説明する際に、
Aとは、Bである。
という具合に説明される文章は素直な文章ですよね。
しかし、分かりやすいので、あまり出題されません。
Aという事象を説明する際に、
Aは、Cではない。
Aは、Dではない。
Aは、Eではない。
というように、説明されていれば、Aは、Cではなく、Dではなく、Eではなく、Bなのである。
という具合に理解できますね。
では、今回の問題はどうでしょうか。
関係価値とは、、、、
(1)つながることによって豊かになる価値であり、、、
(2)生産者と消費者が分断されてない状態であり、、、
(3)交換価値ばかりが強調されているが、交換価値ではないものであり、、、、
(4)誰のものかを問うことを棚上げにしないもの
なんですよね。
これが何か?
ということを、設問の要求に注目しつつ考えていきます。
今回の場合は、人間社会における関係価値これについて、考えていきますよ。
【2】解答のポイント
(1) 大事なポイントは3点ありました
今回の問題では、課題文の内容を、理解しましたよ・・・とさりげなく伝えつつ、いかに的を得た論述ができるかが、大きなポイントになります。今回の問題のポイントはちょっと盛りだくさんですよ。
第一に、課題文の内容理解
第二に、問題設定
第三に、論述スタイル
こんなところが、今年の法学部の問題については、重要なポイントですね。
例年難しいめの問題が出題されていますよ。
(2) 問題設定
あなたは問題設定を大切にしていますか?
問題設定がなぜ重要なのか、なぜ点数を上げるのか
については、6つの理由を『慶應小論文合格バイブル』に書きました。
ぜひチェックしておいてください。
今回のような問題では、課題文を与えられて、何を理解できたかを見られるだけではなく、何を考えることができるのか?どこに問題意識を持つのか?
ということも、見られます。
逆に言えば、論点をあいまいにされているということは、ここで点数を得ることができる
チャンスがあるということです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ところが、多くの受験生は、こういうことをあまり教わっていないので、ほとんどノーガードのような形になっているんですね。
どういうことかと言いますと、自分の考えを連発してしまうということです。
今回の問題では、
人間社会における「関係価値」を設問で問われています。
ここをキーワードとして、あなたが、どのような問題意識を持つことができるかも、採点の対象になっていますので、気をつけましょう。
今回の問題は、理解度を試すことが大きな目的になっていそうです。したがって、解答例のような問題設定をご紹介しています。
(3) 論述スタイル
文章の設計思想をまず学ぶことで、点数が上がります。
では、文章の設計思想とは何かと言えば、次のようなものです。
◆論理思考
・ピラミッドストラクチャー
・論理に漏れ、重複が無い。
・問題設定⇒意見提示⇒理由・データ⇒結論
どこのだれがどれだけ理屈をこねようが、原理的に論理的に文章を述べるには、避けられないポイントなのですがそこをどれだけ深く理解しているかで大きく点数が変わってきます。
今回は理由をあえて言語化しない形で答案を設計しています。
【3】解答例
今日、生物多様性という言葉の定義が混沌としてきている。生物多様性条約においても、「保全」と「利用」という二つの目的が掲げられた。保全という目的では、人類共通の遺産であることが強調される。利用という目的については、人類共通の資源であることが強調される。今日の動向は、生物多様性の経済価値に言及し、市場メカニズムによる保全を協力して行おうとするものである。このように、生物多様性の経済利用価値が強調されがちであるが、地域社会に目を転じれば、地域社会は、生物多様性について、使用価値を認めてきた歴史がある。そもそも、保全や利用という価値を議論する前に、関係価値と呼ぶべき価値を生物多様性に探る必要があるかもしれない。今日のグローバル経済における交換価値の枠組みでは、生産者、消費者が分断されてしまっている。別の価値(関係価値)によってその距離を縮めよることを検討したい。
以上が、筆者の議論である。人間社会における「関係価値」とはどのようなものだろうか。私はモラルの崩壊が起こりにくい社会システム、換言すれば、人の幸せや喜びを形作る価値こそが関係価値だと考える。
近年、食の安全が問題視されている。中国の食品工場では、賞味期限切れの食肉がミンチにされ、世界に販売・配送される事件がニュースとなった。作業員が地面に落ちた肉を拾い、ミンチとする映像や、カビが生えた腐敗した色の肉の映像が世界で放送された。前述の事件は世界の食品事情の一端に過ぎない。現実には、過剰洗浄による洗剤大量使用の食品や、人体に短期的には影響を及ぼさない化学薬品、防腐剤入の食品は食卓にあふれている。法的な要件さえクリアすればよいという経済市場主義的な社会システムは、今日のグローバル化した経済の元では、猛威をふるう。生産者と消費者が分断された経済システムはかつての水俣病や足尾銅山鉱毒事件等の公害を彷彿とさせる。経済効率が加速することで、予測不能な人権侵害、不正義の拡大が起こるのである。生物多様性に関する一連の議論と同じく、無機質に交換の対象として経済活動を行うことが食品問題でも、問題の根本に位置する可能性がある。
人間社会における関係価値とは、モラルの崩壊が起こりにくい商業行為、地域活動、社会的な日常の営みのことである。従って、関係価値とは、直接農家が無農薬野菜を届けるような、人々の幸せや喜びを形作る価値であると表現できる。
【4】食の安全が脅かされている
今回の問題を読んで思い出した人もいるかもしれませんが、食品偽装問題のニュースや事件が近年目立ちますね。
賞味期限切れの商品、産地を偽ったものなど、多くの偽装食材が外食産業や、小売チェーンで扱われています。
先般の事件では、マクドナルドと、大手コンビニチェーンのファミリーマートが中国の食肉工場から仕入れた食肉で、問題となりました。
賞味期限切れのカビが生えた肉が、ミンチにされて、油であげられることで、分からなくされて、私達の食卓に運ばれていたということです。これは大変恐ろしいことですが、問題はもっと深刻です。
鶏肉や豚肉に限らず、他の動物の肉が使用されている場合や、食肉としては適さない部位の肉が、まぎれていることもありました。
馬肉が牛肉として販売されていることもありました。
世界の経済がグローバル化することにより、生産者と消費者はより一層分断されていきます。
より一層肉を安く生産するため、ぎゅうぎゅうに狭いところに詰め込まれた動物達に、薬剤を大量に投与した薬入のエサが与えられ、その後屠殺されます。
薬剤が与えられているのは、動物たちだけではなく、家畜に与える食材も同様です。遺伝子組み換えの食物や、農薬を大量に散布した植物が、これらの家畜に与えられます。
当然有毒物質である化学薬品は私達の体の中にも入ってきます。
病気にならないように育てるために、食物に大量に抗生物質が投与されるとどうなるでしょうか。
抗生物質は、免疫力を下げるとも言われていますが、これらの薬剤を投与することで、いかなる薬もきかない菌が発生することがあると言われています。このような菌を薬剤と共に、食事を通して、我々の体内に入れるリスクもあるのですね。
生産性を限界まで追求した畜産業は、その肉の生産工程が非人道的であるばかりではなく、その肉を口にする最終消費者の人間にも、大きな健康リスクを与えていると言われています。
経済活動が生産性を増すことは良いことである一方で、交換価値だけに焦点が絞られた経済活動になった場合大きな不条理や事故、事件が起こります。
法学部では、経済的な目線に限らず広く政治的、社会的な目線でこれらの問題を捉えることを要求されます。
ぜひここに注意して今回の問題を捉え直してみましょう。
【5】編集後記
受験では、良い結果にならないこともあります。
今回良い結果にならなかった人も、いろいろな方法があります。
ぜひ元気をだして、がんばってください。
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