このページでは、メルマガで流した慶應大学の文系学部の小論文問題の解説を掲載しています。
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2004年度慶應大学総合政策学部 小論文過去問題解説
こんにちは。
牛山です。
本日は、2004年度 慶應大学総合政策学部小論文過去問題解説です。
今回の問題は次のようなものです。
設問1
この10年の国際社会、国内社会の双方の変化について、新ODA大綱が必要となった理由を説明できるように、1000文字以内で記述してください。
今回の問題は、まず二つのODAの内容を見比べる必要があります。
どのような部分に違いがあるのかを見ていくと、、、、
かつてのODAは人道支援の色合いが強かったのに対して、
新しいODAは、政治的思惑が強いことが分かるでしょう。
総論は上記のようなところにあり、細かい点を拾っていくとたくさん違いを見つけることができます。
あとは、なぜ、政治的思惑を強くしなければならなかったのかについて、ヒントになることを資料から探しつつ、
自分の知識を含めて論述していくことが大切です。
解答例
この10年間の国際社会、国内社会の変化とはどのようなものだろうか。一言で言えば、金融資本主義の限界や、テロによる社会不安の拡大が、国際社会、国内社会の変化の背景にあると私は考える。
金融資本主義は、実質的にマネーゲームである。実態の無い商品に格付けやラベル付けを行い、売買を行うことで、富を循環させるモデルが破たんするまでは成長が続く。しかし、実体経済から大きく遊離した際に、何らかの因子がトリガーとなり、バブルがはじける。同時に、資本主義は、実体経済から遊離せずとも、投資先が無くなれば大きく減退する性格を持っている。この10年間で世界が経験した変化とは、「資本主義および金融資本主義の限界を先進国が突き付けられたこと」と見ることができる。
また、アメリカを襲ったテロ事件は、社会を大きく混乱させた。世界の警察として圧倒的な国力を持つアメリカにテロという形で対抗手段が少なくとも存在することは、国際社会における社会秩序の崩壊を意味した。テロの脅威はアメリカだけではなく、我が国も例外ではない。
経済的危機や安全保障上の危機は、我が国の危機意識を高め、従来の人道支援等を強く打ち出していたDDAとは違い、新ODA大綱では、戦略的な色合いが強くなっている。具体的には、我が国と各国政府との結びつきを強め、我が国の安全保障及び、経済発展に対する投資の意味合いが強くなっている。中国に対しては、我が国は戦後の補償をODAという形で行ってきた歴史がある。この事例のように、総じて政治的思惑の強いODAへと、この10年間で大きな変化が起こっている。
新ODAが必要となった理由は、経済的、政治的観点から、我が国の持続的な成長に陰りが見え始めたことにある。その背景には、金融資本主義及び、資本主義の原理的な因子があり、問題は構造的に存在している。同時に、国際社会の軋轢が表面化することにより、日米安保を主軸とする我が国の安全保障問題もその安全性に疑問が投げかけられるようになった。テロや経済の減退という目に見えない国際社会における社会不安の拡大は、我が国の持続的発展を妨げるものであり、政治的思惑の強い新ODA大綱が必要になったと考えられる。
それでは、設問2を見てみましょう。
設問2は次のようなものです。
設問2
ODAの見方には、肯定的なものと否定的なものがあります。一部NGOのODAに対する見方は否定的なものです。なぜこのような見解の相違が生まれるのかについて、意見を述べてください。
資料を見ると、地元住民が日本国を相手に提訴している内容が書かれています。本来は地元住民を豊かにするはずのODAが、住民を不幸にしている事例が記載されています。
あくまでも、この事例を見方の問題として扱い、その上で、このような見方の違いが生まれる背景について言及していきましょう。
解答例
なぜODAに対する見方に違いが生まれるのだろうか。
ODAに対する見方の相違が生まれてくる背景には、大きく二つの因子が存在する。第一の因子はスタンスの違いである。ODAに対するスタンスの違いが存在する。日本政府は、あくまでも公共財の投資をもって、ODAを完了させるというスタンスである。一方で、NGOの立場は、あくまでもより良い結果をもって、ODAが意味を持つというスタンスである。
第二の因子は、公共選択のプロセスにある。地元住民が希望する社会的意思決定プロセスに何らかの問題があったことが予想される。地元政府が用意する合意形成のシステムに問題がある場合、いくら国際的にODAを実施しても、真に意味のある公共投資は行われない。資料では、地元住民代表が合意したとの記述があるが、重要なことは、民意が反映されることである。民意が反映されない因子は数多くあると考えられる。(1)合意形成のシステムに欠陥がある。(2)十分な協議ができていない。(結果に対する予想ができていない。)(3)住民の同意が得られていない。(4)協議内容と結果が違う。
以上、大きく二点の因子が存在することにより、より良い公共選択ができなかったこと、及び、ODAに対する両者のスタンスの違いから意見の相違が生まれると私は考える。
総合政策学部を受験する際には、民意がなぜ反映されないのか、なぜ政治が機能しないのかなどについて、自主的に勉強しておくことが大切になります。
今回の解答例も参考にしつつ、自主的に勉強を進めましょう。
政治経済の教科書を読んでもあまり受験対策にはならないので注意しましょう。