慶応大学法学部の小論文過去問題解説

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慶應大学SFC 総合政策学部 小論文過去問題解説 2013年

 

 

こんにちは。
ディジシステムの牛山です。

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【1】本を読んでいた人は解きやすかったはずです
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今日は、2013年度 慶應大学総合
政策学部の問題の解説を行います。

今年の問題は面白い問題ですね。
読んでいて、ワクワクする問題でし
た。

受験した方はいかがだったでしょう
か。

一応、討論のような形をとっています
が、実質的には自分の立場は決められ
ており、自分の主張を的確に述べるこ
とを要求されます。

きちんと対策を行っていた人はかなり
書きやすい問題だったのではないかと
思います。

慶應小論文合格バイブルでおすすめし
ていた書籍を読んでいた人は、解きや
すい問題だったかもしれません。

 

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【2】概要
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さて、今回の問題は、A,B、C、D
の4つの課題文があり、複数の論点を
整理し、自分の主張を展開する問題で
す。

 

A~Dの課題文のそれぞれの主張は以
下のようなものになっています。

----------------------------------
A:日本に必要なのは自信の回復である。
B:日本人は国を中心にゼロからの再出発をするべきだ
C:国民の情報収集と感受性を磨いておくことが大切だ。
D:セーフティーネットを作り、日本を捨てろ(開国しろ)
----------------------------------

今回問題を解いた後にメールをしてき
た塾の生徒の子がいて、今回のDの課
題文って大前さんの地域国家論じゃな
いですか?

と言うんですね。

うーん、そうだとは言えなくとも、主
張はかなり似ているところがありま
す。

大前研一さんが地域国家という概念や
道州制について言及したのはずいぶん
と昔ですが、近年では、日本政府でも
他国の繁栄する事例を産業クラスター
という概念で調査し、レポートをした
り、この部分についての研究がかなり
進んでいるように思います。

この都市の発展という点で大成功して
いる最大の事例は、アメリカの西海岸
のシリコンバレー。

世界のITの総本山のような場所で、
世界から富と人材が集まります。

フェイスブック、グーグル、ツイッタ
ー、アマゾン、ジンガなど世界のTO
PクラスのIT企業が集まり、資源が
極めて流動的に瞬時に最適化される仕
組みができています。

それに対して、日本はどうなのかとい
うと、政治と経済の両面において、こ
のような理想的な世界の中核となるよ
うな強みを持った地域が存在せず、先
進国の都市というポテンシャルで勝負
しているにとどまっています。

まずはこのような世界経済の原理原則
があり、21世紀の経済がどのような
モデルで動いているのかを知ることも
極めて重要です。

(総合政策学部の受験生についてで
す。)

お勧めの書籍は新・資本論です。

慶應クラスでは、このあたりの事例に
ついて、授業をしていました。他国で
は、連邦政府が評価連動型の資源配分
などを行い、地方が自立し、人、モ
ノ、カネの資源配分が流動的に行われ
る仕組みを解説していましたので、か
なり問題も解きやすかったのではない
かと思います。

今回のメルマガでは、いろいろと周辺
知識についてお話をしていきますが、
これからの時代は、地方に徴税権、立
法権を与え、より一層自立した地方行
政の在り方を模索する必要があるでし
ょう。

各都市の生産性が低下しないように、
インセンティブを設計することが重要
です。道州制の構想もその一つです
ね。

 

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【3】何がいいのか?よりもどうするのか?
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ここが、SFCが他の学部と違うとこ
ろでもあるのですが、何がいいか?と
か、どれくらいがいいか?

というような議論そのものは、あまり
本質的にはされないんですね。

なぜかというと、そもそもが、問題解
決を志向した学部だから・・というの
も理由の一つですが、本質的に何がい
いかということは議論をしても、生産
性が低いし、状況が良くならないこと
が多いんですよ。

何がいいか?
という問いよりも、今のこのケースに
おいて、このような前提の状況の中で
より良い状態とはどのような状態であ
り、どのようなアプローチや戦略設計
でそれが可能になるのか?

ということが原則的にあらゆるケース
で重要な考え方になります。つまり、
トコトン、アクションを起こすことを
前提にするのであれば、何がいいのか
?という問いそのものが、ごはんのお
かずのようなもの
(主食ではない)なんですね。

ちょっとつらつら書いているので、た
とえが良くなかったですね。

もう少し別の言い方をすると、人間が
本来行う全社会的な活動社会をより良
い方向へと導き、人々の生活に良い変
化をもたらす活動そのものが、『主』
となり、状況が『従』となる状況下に
おいては、

どのアクションがより妥当性が高いの
か?ということが、本質的に原理的に
・・と言ってもいいのですが、議論の
目的になります。

そうですよね。社会を変えてナンボな
わけです。

 

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【4】違いは何か?
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〇〇がいいかどうか?という議論と、
どうすべきか?の議論の違いとは、本
質的には、止まるか止まらないかの違
いです。

例えば、民主主義と独裁政権のどちら
がいいのか?という議論が出来上がっ
てしまったとします。

この議論は本質的にはあまり価値を有
しません。

独裁政権と言えば、良くないに決まっ
ているという考えを持っている人もい
るかもしれませんが、民主主義を旗印
にしている国が、他国に戦争をしかけ
ているのが現代の実情。

民主主義はかならずしも、リスクをヘ
ッジしていないし、多くの犠牲者を出
している側面があるのもまた事実です。

実質的には、冷静に見た場合、どちら
の国にも、より良い結果が生まれるこ
ともあるんです。

このような政治のガバナンスの機能不
全が、世界で飢餓を起こし貧困を拡大
している構造が現代の世界には存在し
ています。

一部の利権にあずかる巨大企業が、オ
イルマネーを独り占めし、国民が貧し
い生活を送らざるを得ない状況にあっ
たベネズエラでは、チャベス大統領が
その富を国民に行きわたらせました。
(総合的な政治や経済の状況改善状況
については、意見が分かれるところですが。)

住居を国民に与え、教育を無料にし
(大学まで無料)、医療と福祉を充実
させました。

民主主義の時にはできなかったことが、
半独裁政権によって可能となるのはど
うしてでしょうか?

その一つの理由は組織なり、国家なり
の生産性が引きあがる為です。民主主
義は合議制ですべてが決められ民意が
反映されやすいという前提がすでに
(多くの国で)ウソになってしまって
いるということです。

重要なことは、生産性や富の再配分で
す。政権交代の際のアンケートを見て
も、現在の自民党へ投票した理由は、
単に民主党に失望したからのアンケー
ト結果が大部分を占めています。

つまり、民意など何も反映されておら
ず、公約は守られず、政治は変えられ
なかったということなのです。

このことを私たちはしっかりと考える
必要があります。

――――――――――――――――――――
■AorB と より良い状態(問題解決)
――――――――――――――――――――

もし世の中をより良い方向に導こうと
思ったら、重要なことは止まらないこ
とです。

今のこの状況でこのケースでこの前提
で、何が決定的に重要なポイントで何
をどの程度どうすることで現状のボト
ルネックが解消し、より良い方向へと
社会を導くことができるのか?

この問いしか重要ではありません。

なぜならば、
何がいいかは、前提よって変わるとい
う普遍の原理があるからです。

何がいいかは前提によって変わります
ので、自国の事情が違う他国の事例を
そのまま自国に流用することは、多く
の場合できず、何がいいかを論じてい
ることそのものが大きなナンセンスに
なってしまう仕組みも同時に存在して
います。

絶対に無理だという考えからは何も始
まりません。何についてどの程度どう
いうケースでどれくらい無理な可能性
があるのか?と問わなければなりません。

まずはこの点をお話しておきました。

なぜならば、この点は、まさしく、考
察の前提としての原理の部分だからです。

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【5】幸福が目的か、それとも繁栄が目的か?
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そもそも、公共政策の議論において、
国家の役割なり戦略なりを話あう時に、
目的とすべきことは何でしょうか?

正義論の世界においては、正義そのも
のが目的化します。社会正義の実現が、
伝家の宝刀となるということです。

正義というのは、社会の秩序や安寧を
志向するものです。従って、過去数千
年の人類の歴史において、この正義が
実現されていない社会においては、極
めて重要なものでした。

戦争が世界で繰り広げられ、第二次世
界大戦後は、経済の暴力が世界を支配
しました。

社会正義が実現されない社会において、
まず真っ先に重要なものこそが、社会
正義だったのかもしれません。

戦争は課題文にもあるように、核の脅
威が世界を包むようになってから人類
の全面戦争は非現実的になりつつあり
ます。

今は世界最大級の水素爆弾で、直径2
00キロが一発で吹き飛びます。人間
の殺傷能力が半径100キロに及ぶと
いうことは、一つの県ではなく、東北
地方、近畿地方、中部地方、関東地方
など、一つの地方が一発で消し飛ぶと
いうことです。

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■ゼロベースで考える
========================================

何がいいか、何を目指すべきかは目的
によって変わります。

ところが、この目的は、状況によって
変わるべきものでもあるのです。公共
政策の議論の難しさというのは、政治
哲学の世界でマイケルサンデル教授が
説いたように、各共同体ごとの共通善
が目的にならなければなりません。

つまり、普遍的な正義というものが存
在するのではなく、あくまでも存在す
るのは、正義の原理であり、重要なこ
とは、各共同体ごとの共通善を考察す
るということです。

ところが、この正義という概念を伝家
の宝刀のように本当に受け入れてしま
ってもいいのでしょうか。

分かりやすい例を挙げれば、今まさに
侵略戦争をしかけられようとしている
さなかにあって、それでも社会正義の
実現を最重視すべきでしょうか。

このような問題は、一つの国家だけが
この世に存在しているのではなく、独
立主権国家の集合体がこの世界には存
在している為に、起こる問題です。

物事を考察する際に、バイアスがかか
ったり、判断を誤ったり、意思決定に
妥当性が欠けたり、非論理的な考えに
なってしまう最大の原因は先入観にあ
ります。

物事をゼロベースで考えてみましょう。

今、日本を取り巻く環境や状況がどの
ような状況なのかを考える必要があります。

 

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【6】幸せを目指せという幸福論のワナ
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人間にとって幸福を目指すということ
以上に明白な前提はないかのように見
えます。

しかし本当にそうでしょうか。

人間の生きる目的は幸せなのでしょうか。
人類がハッピーなら万事OKなのであ
るというのはいかにも(頭が)ハッピーな考えです。

少なくとも、哲学的なレベルで考えた
とき、幸福というのはもしかすると人
間の究極的な目的ではないかもしれな
い・・・・

と、説いたのは、世界の歴史の知の巨
人と言われたトルストイです。トルス
トイは、我々の生命そのものを個我と
表現しました。

人生を通じて、幸福だと思い、享受し
ている幸福の種のようなものすら、日
々一層体の衰えを感じ、力を失い、一
瞬一瞬確実に死へと近づく我々の人生
においては、確実に無くなり、実は不
確実なものではないかと。

自然科学が、我々の社会をどんなに明
らかにしようとも、明らかにしている
かのように見えるその一つ一つの物事
については実質的には人類は何も理解
はしていないと。

物事の関係性と法則と原理と、構造を
明らかにしても、実質的にはより一層
本質的な部分については何も理解はで
きていないと言います。

うーん、まあこんな考え方もあるんですね。

そもそもが共通善という考え方そのも
のが、社会の構成員の共通認識の合意
形成の最低ラインを担保する程度の役
割のものでしかないのかもしれません。

 

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【7】懸命に生きてこそ人生は精彩を放つか?(個人)
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このメルマガの読者の方には、ハーバ
ードの幸福に関する研究のお話をした
ことがあるかもしれませんね。

人の幸福とは、究極的には、意義と喜
びなんだそうです。幸せというのは、
一般的には喜びとして考えられるかも
しれません。

おいしいものを食べ、きれいな服で身
を包み、充実した時間で好きなことを
するという考えは、喜びかもしれませ
んね。これだけが人生なら、快楽を味
わうことができる快楽装置が発明され
たら、死ぬまでこの快楽装置につなが
れてハッピーな夢をみていたいでしょうか。

それが生まれてきた目的なのでしょうか。

そこで登場するのが、人生の意義です。
私たちが資本主義の社会の中で働くと
いうことは、何も労働によって刑務所
の中で強制労働の刑にあっているのと
同じようなものではなく、社会に対し
てより良い変化を与えるという大きな
目的があります。

ここが働く意義の部分です。
私たちは裸で生まれて、死ぬときは裸
で死にます。

それじゃあ、なぜ生きるのか?という
と、一つには、自分の喜びの為であり、
同時にもう一つは意義の為ではないか
と言われています。少なくとも、何ら
かの意義を感じる時に人は幸福感を得
る生き物なんですね。

おいしいものを食べて快楽を得ること
だけの為に生きても幸せにはなりきれ
ないということです。

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【8】付加価値を生み出せない組織、共同体、国家が破たんする(組織)
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ものすごくシンプルに言いますと、な
ぜ今世界の国家がこのように大変な状
況になっているのかといえば、それは
国家として、付加価値を生み出せない
からです。

つまるところ、人が働くということは、
どこまでいっても、原則としては、世
の為、人の為からは、離れられないん
ですね。

金融資本が世界の経済を席巻するのに
伴い、純粋なマネーゲームでも世界経
済は動きます。しかし、マネーゲーム
では世界の経済は成り立ちません。

世界の経済の矛盾の中で暗躍する人も
いれば、実質的な付加価値を世の中に
提供して、世界の人々の生活に良い変
化をもたらして、成長する企業や国家
があるんです。

この良い変化をもたらすという、『与
える部分』もしっかりと考えていかな
ければ、世界の経済やましてや国家論
などというものは極めてナンセンスに
なるんですが、いつの時代からか、貨
幣経済の中で生まれて育つうちに、こ
の貨幣に対する先入観や思い込み、様
々な感情が私たちの頭の中を支配する
ようになったんですね。

これはとても悲しいことです。

なぜならば、貨幣というのは、経済の
実態の方ではないですから。

例えば、今ジャブジャブ財政出動して、
市場にお金を出まわっていますが、そ
の結果どういうことが起こるでしょうか。

インフレになりますね。そうなると、
実質的に私たちが持っているお金は実
質的に目減りします。これがインフレ
リスクと呼ばれるものです。

ボーっと寝ていても、資産が減ってい
るのと同じになる。使わなくても減る
ということです。同じことですね。銀
行に預けておくと、お金は大丈夫なの
ではなく、勝手に(実質的には)減っ
ているんですよ。

(本来は割引率というものを設定して、
将来の貨幣価値を現在の価値に換算す
るとどのくらいになるのか?というこ
とを行うのが、きちんとしたアプロー
チなのですが、ざっくり【減るのと同
じ】と考えてもOKです。)

日本が破たんしてハイパーインフレに
なると、資産は実質紙くずになり、持
っていないのと同じになります。

今、日本の国家というのは、この状況
の直前にいると言われています。

もう借金の利息を返済するだけでも、
手一杯になる時期がもうそこまで来て
います。最後は、国家破綻するのでは
ないか、と言われています。

なぜこんなことになったのでしょうか?

平たく言えば、実体経済以上の無理を
国家はきかせることができる立場にあ
り、それをやり続けたからです。

見通しが失敗した形になるわけですが、
そのツケは全部国民が支払う形になります。

(国債はほとんど国内で消化されてい
ますからね。江戸時代にも江戸幕府は
実質的に借金を踏み倒しました。)

みなさんのお父さんもお母さんもがん
ばって働いて、家族の為に蓄えたお金
や資産は、国によって信用が保障され
ていたとも言える日本貨幣です。政府
が実質的には発行するものです。

その価値を政府はコントロールするこ
とができます。

ところで、日本の経済は、
今はどのような状況かと言いますと、
ご存知の通り着々と国家破綻に近づい
ているとも、言えるわけです。

ここまでにつらつらと書いたことは、
書籍にいくらでも書いてあるので、興
味がある人は図書館やネットで勉強し
てみるといいでしょう。

書いていないことをこのメルマガには
書きましょう。

まず、国家論や経済論を考察する前に、
人類の社会的活動の成り立ち方の方を
考える必要があります。

そもそも、どのような形こそが、持続
的な成長を可能にするのか?という大
前提の部分です。

それは、実体経済からかい離しすぎな
い形で、付加価値を生み出し、世界の
中の一部の国家として、世界経済によ
り一層良い変化をもたらす為の役割を
持続的に果たすことができるようにな
る状態です。

世界に変化を与える見返りとして成長
し、そして付加価値を世に与え、そし
て、世界と共に成長し、共存するあり
方が、上記のような貨幣経済の矛盾と
混乱を超えて、生き残り続ける道なん
ですね。

その意味で、資料文のCの言説という
のは、ある意味では言っていることは
間違ってはいないかもしれませんが、
極めて無責任で、かつ、持続性の無い
言説ということができます。

現状でいいとか、もうこれでいいとい
うのは、この世界経済の中の一部を果
たす役割が無いに等しいということで
あり、存在しなくても世界は困らない
ということです。

それならば、日本という国が存在しな
いのと同じで、もっといい役割を果た
すことができる国家の一部になってし
まう方がいいということに、役割上は
なってしまう。そして、日本は中国の
一部になればいいとか、アメリカの一
部になればいいという意見そのものも、
存在します。

それでもいい?

と考える人もいるかもしれません。要
は時間いっぱい働いていたら、お給料
をもらえて、生活して、自分は楽しく
暮らしていけるんでしょう??

という意識の人は世の中にたくさんい
ますし、それで世界は回っているとこ
ろもあります。

ただし、そういう組織は弱い。極めて
弱いので、長期的には競争力を失い、
企業であれば倒産、国家であれば、破
たんにつながりやすいと言えるでしょう。

全員が(要は動いてりゃいいんでしょ
う??)

という考えでは、世界はより良くはな
っていかないですね。

誰かがイニシアチブを取り、リードし
ていかなくてはなりません。他人に依
存して、文句だけ垂れるというのは、
もっとも見苦しいかもしれませんが、
それ以前に誰かがリードしていかない
と、世界は回らないというのも現実です。

もっともっと簡単に言いましょうか。
リアルな側面を簡単に言う方が伝わる
かもしれませんね。

現状に満足しましょうよ。。。

という言説というのは、がんばらなく
ていいよ、発展しなくてもいいよ、と
いう考えであり、思想論としては優れ
ている側面もあります。

ただし、資本主義経済(これがいいと
は限りませんが)の中では、生き残り
にくい思想です。

今ある国家の資産で食っていけばいい
という考えは、国にその資産が無くな
ったら、次はどうするのか?という問
いには、答えていません。

国家論を語るのであれば、1億2千万
人の国民をいかにして食わせていくこ
とができるのか?

ということが、最低レベルの、大前提
なんです。

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■平和ボケの恐ろしさ
========================================

ところが、今の時代のような平和でか
つ、繁栄した時代に生まれた私たちは、
往々にして、食べることができなくな
るというイメージができません。

ハイパーインフレになり、円の力が弱
まり、活動時に、戦後のように貯金封
鎖が行われ、自分の資産を引き出せな
くなり、新しい円に切り替えられ、資
産がゼロになり、日本中の銀行が倒産
し、食料を輸入することが困難になり、
他国からエネルギーを買うことができ
なくなれば、私たちの生活はどのよう
になるでしょうか?

ガソリンが買えない、灯油も買えない、
電気をつけられない、そういう生活を
イメージできるでしょうか。

(余談ですが、日本の最終エネルギー
消費量は増加傾向にあります。部門別
に見ると、業務部門と家庭部門が増加
傾向。)

そんなことが起こるはずがないと考え
る人も多いですが、限定的にならば、
起こるかもしれません。日本の借金は
すでに約1000兆円になっています。
毎年約40兆円ほどの借金を繰り返し、
日本にこの難局を乗り越える(国家の)
資産はそこまで用意されておらず、今
後は国家が社会福祉に回すことができ
る資産をいかにして確保するかという
構想が既に立ちいかなくなりつつあり
ます。(慶應クラスでは詳しい国家の
資産状況の内訳もそのうち勉強します。
10月予定)

実際には限定的に悲劇は起こるかもし
れませんが、これは楽観的なシナリオ
の方だと私は思います。

日本の産業の国際競争力、人口動態、
国債発行数、国債の金利、日本人の国
際競争力など、複数の指標を多面的に
見ていくと、この異常事態に気付くわ
けなんですね。

ここまでのことが、今年の総合政策学
部で出題されていることの意味なんだ
と理解できることがまずは大事です。

慶應クラスでは、私はたびたびこれら
のことについて、塾の生徒に話をして
いたので、特に小論文をしっかり提出
していた人ほど、耳タコで理解できて
いたと思います。

資料A~Cの決定的にダメなところは、
細目事項についての言説であり、実態
からかい離し、問題解決の力がまった
くないことです。

(非論理的であることも決定的にまず
いです。)

経済に実質的に何が起こるかは、貨幣
経済を抜きにしてみればもっとリアル
にイメージできます。
極限まで簡単にお話します。

------------------------------------------------------------------
あるところに、5人家族がいました。
無人島に漂流して生活する5人です。

13歳、20歳、20歳、12歳、12歳

この状態から、60年後は、

このうち三人が病気で動けなくなりま
した。一人は亡くなりました。

73歳、×80歳、×80歳、×72歳、(72歳)

この時に、どうやって暮らすか?

一人が全員を養う為に、漁に出て、食
料を取ってくるかもしれません。

昔は5人で働いたので豊かな暮らしが
できました。しかし、最近では漁に出
ても魚も取れにくくなり、そして、全
員で分けなければなりません。

したがって食べていくことがやっとか、
極めて貧しい生活を送るしかなくなり
ました。

5人で働き、5等分を役割分担をする
ことで生産性を引き上げる生活から一
人の生産性で得た対価を4人で分ける
生活になったのです。

----------------------------------------------------------------

もちろん、子供を作ることができれば
このようにならないかもしれません。

しかし、今の時代は、少子高齢化、逆
三角形のピラミッドの形なんですね。
そして国際的に競争力が弱くなりつつ
あるので、実質的には上記の無人島の
物語と似た状況を迎えつつあるとも言
えるわけです。

1億人の国民がいるだけに、問題はよ
り一層深刻であり、問題の本質はこの
国民の生活を保障しきることにありま
す。社会正義の実現というのは、時間
軸を無視してその場で完結してしまう
側面があります。

ところが、社会秩序そのものの優先度
よりも、時と場合によっては人にとっ
て重要なものとは、生き抜くことにな
り得るということは覚えておく必要が
あります。あるいはその生存そのもの
や生活が、極めて大きなレベルで脅か
されるリスクと向きあう必要があると
いうことです。

総合政策的な発想では、このように、
社会秩序や経済的な側面を文字通り総
合的にイメージしていく必要があると
いうことです。そうしなければ、考え
ることができなくなります。

日本の国際競争力は、かつて世界トッ
プだったのですが、今では30位ほど
まで凋落しています。またこの件につ
いてメルマガで一緒に勉強しましょう。
(GDPだけでは、国の力は分かりません。)

 

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【9】理由はいくつあるのか?
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さて、ここまで長々と、周辺知識につ
いて確認をしてきました。

Dの言説を支える論拠にはどのような
ものがあるでしょうか。ざっくり理由
の方をまとめると以下のようなものが
あります。

1)状況が悪すぎる

【少子高齢化・教育の方向性・若者のマインド・海外大学院進学率・国内の優良企業の業績悪化】

2)リスクが存在する
【デフォルトリスク】政府の資産状況・国債の外国人保有率上昇
【国際競争力のさらなる悪化】台頭する海外企業
【少子高齢化】悪化する人口動態

3)状況の悪化
(今の状況で足ることを知ってもさらに悪くなる可能性)
※上記のリスクがトリガーとなる。
論拠への反論

4)持続的成長⇒(平たく換言すれば)国民を食わせる。
成長が(が)いいのではなくて、国民
を養う可能性のある政策の実現を模索
することが重要。単に奪う、使う、進
歩しないだけでは、その先がジリ貧と
なる。付加価値を生み、世界に貢献し、
人に役立ち、世界をリードすることで、
持続的な成長とより良い世界の統治体
制を模索する。

5)問題点への対処
この他に、現状の問題点の構造を明ら
かにした上で、その問題点への対策と
なることを理由としてもOKです。

※その他にも、もちろん理由があってOKです。

あとは、これを資料に照らし合わせ論
述していく形になります。資料の内容
や、具体的な論理の組み方など、差が
つくところを慶應クラスなどの通信制
の塾では具体的に扱っていきます。今
回のメルマガは極めてざっくりした部
分の解説ですので。

========================================
●日本の状況分析
========================================

近いうちに、動画でこのメルマガの
(総合政策学部の本格的な過去問題解
説ではなく)解説動画をお送りします。

以下のようなSWOT分析も覚えてお
くと、考え方の練習になります。どう
いうことか、このメルマガでは詳しく
お伝えしませんが、また動画の解説の
中でお会いしましょう。

【S】強み・・・・産業競争力、技術立国した技術的優位性
【W】弱み・・・グローバル人材育成・人口動態・マインド
【O】機会・・・統治機構の変革・IT(伸びて拡大する市場)
【T】脅威・・・デフォルト、国際競争、少子高齢化の深刻化

 

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【10】問い1での設問の要求は?
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問い1での設問の要求は、

3つの指標で評価することですね。

1)日本の国内状況(内部)
2)海外の状況(競争力)
3)改革の必要性

もしかすると、この問題は、評価が掛
け算になっているかもしれません。

つまり、ここに書いた内容と本文の内
容の論理的な矛盾が無いかどうかで、
内容の点数を再評価されているかもし
れないということです。

これは仮説に過ぎませんが、あるいは
純粋にここに配点があるのかもしれません。

ただ、日本の国内の状況を評価すると
言っても、それは評価軸によって決ま
ってきますので、単に評価するだけで
は意味のない設問になってしまいます。

自分の提示している
データと、評価の意味づけによって、
受験生の合理的な論理的思考力を見よ
うとしているのかもしれません。

論理を構成する力だけではなく、論理
的思考力の度合いを評価された可能性
があります。

========================================
●法学部受験生の小論文対策との相乗効果
========================================

総合政策学部と法学部を両方受験する
人は相乗効果があるので小論文の勉強
はいいリスクヘッジになります。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【11】論理的思考力、問題解決力、日々の勉強を
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

総合政策学部の入試対策は、論理的思
考力や問題解決の思考方法そのものに
慣れることが大切です。

大変奥が深い思考アプローチですので、
すぐにパッと身につくものではありま
せんが、この点について日々練習を重
ねて、勉強を続けることが合格のため
の地力の養成につながります。

今回の話も、少し長めでしたがまだか
なり生ぬるく解説しています。2013年
の法学部、2012年のこのメルマガの解
説を見ていくと、総合的に大枠を少し
理解しやすくなると思いますので引き
続き、このメルマガではこの周辺につ
いて過去のメルマガも扱い、お話をし
ていきます。

勉強は一生勉強です。特に世界の政治
と経済については、より一層本質的な
視点はどのようなものかを考えなけれ
ばならず、国内の政治も海外の政治経
済と切り離して考えることはできません。

統治体制、政治の在り方、経済原理、
経済モデルなどを総合的に学んでいく
ことが、慶應大学の小論文対策として
有効な対策となり得ることも視野に入
れておき、日々学習を重ね、新聞や本
を読み問題意識を高めておきましょう。

 

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【12】解答例
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【問1】
観点① 日本のこれまでの国家運営をどう評価するか

どちらかと言えば失敗・・・D
どちらとも言えない・・・B
どちらかと言えば成功・・・A
不明、あるいは判断材料が不十分・・・C

観点②今後日本を取り巻く環境はどうなると考えるか

どちらかと言えば悪化する・・・B 第二段落
あまり変わらない・・・C
どちらかと言えばよくなる・・・・A
不明、あるいは判断材料が不十分・・・D

観点③今後の日本の国家運営はどうあるべきか

どちらかと言えば今までの延長で良い・・・A
少し変えるべき・・・D
大幅に刷新すべき・・・B
不明、あるいは判断材料が不十分・・・C


【問2】

A:国内市場の大きさ・日本人としての自信の回復・世界で最高レベルの豊で平等な社会
B:国家主義の台頭・持続可能性・国家戦略による官民の主導
C:したたかな受け身・経済と社会の仕組み作り・等身大の幸せ作り
D:脱日本・都市・ネットワーク


【問3】

  A組は国内市場が大きく、日本は民主主義が機能しているため、日本人としての自信を回復せよと説いている。しかしながら、日本の国土は狭く、人口も他国に比して決して多いとは言えない。(図1)A組の意見は総じて楽観的であり、同時に定性的である。さらに、対策案も漠然としており、その対策案に論拠が提示されていない。現状分析及び対策案が事実に合致しておらず空理空論となっている。
 B組は現在は国家主義が台頭した時代であり、持続可能性が問われるため、国家戦略による官民の主導が重要であると説く。現状分析については、概ね事実に基づいており、問題はなさそうに見えるが、現状分析から対策案について、論理の飛躍がある。現状が厳しいので官民を国家が主導せよというのは、いささか乱暴な論調と言わざるを得ない。この対策案が有効に機能する論拠は十分に述べられていない。
 C組は、日本は国家戦略を用意したことは無かったと説き、すべての日本史の出来事は政府の受け身の結果であると説く。このような解釈は、日本が近代化に向けて行ってきた様々な政策及び外交、かつての犠牲を払った戦争等をあまりにも軽視した言説と言わざるを得ない。律令国家の成り立ちから近代憲法の制定まで、不断の努力があり、日本国は国家としての成立過程を経てきた。仮にこのようなC組の解釈が成り立つのであれば、日本は既に明治時代に植民地化されていても不思議ではない。このような事実を無視した現状認識及び現状分析に加え、C組の対策案は「等身大の幸せ作り」となっている。この対策案が資本主義経済下で生き残りをかけて死線をくぐる企業や、日々の暮らしをマネジメントする多くの国民意識から遊離した楽観的過ぎる考えであることは言うまでもない。国策論としては言説に値しない。加えて言えば、日本の幸せ度は国際的に見た場合平均的な物である。(図10)
 D組は、現代の経済を国家単位で把握することについてあえて問題提起したい。地域国家論という説がある。現在の世界経済は国家主導で成り立っているのではなく、地域経済を中心として成り立っているという考えである。世界上位企業ランキング(図3)を見ても分かるように、東京、大阪などの大都市圏に上位企業は集まっている。
 今後はこのような現状を踏まえつつ、従来の非効率的であった中央集権型の国家から、地方へ権限を委譲し、地域国家を発展させる形が、資源の配分の上でも望ましい。理由は大きく3つある。一つ目の理由は増え続ける公的債務残高である。日本の公的債務残高は国際的に見ても異常な数値となっている。(図7)従来のように地方及び中央で無駄な公益法人を作るなどの無駄な空費を抑えることが今後は重要になる。第二の理由は、ネットワークである。インターネットの普及率が日本は極めて高い。(図5)この情報インフラを活用し、企業が地方でも事業運営を継続できる仕組みが今模索されている。3つめの理由は、他国の成功事例である。シリコンバレーのような産業クラスターが、現在では飛躍的な産業、経済発展の土台となっている。特定の文化圏における背景が、産業を生み出す原動力となり得る。上記3点の理由(公的債務残高、ネットワークインフラ、産業クラスターの成功事例)から、地域国家繁栄のための場づくりを行うことが、未来の日本の為に望ましいと考えた。悲観も楽観もせず、現状に即した適切な課題設定を通して明るい日本の未来を描いていきたい。



 

 

 

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