このページでは、メルマガで流した慶應大学の文系学部の小論文問題の解説を掲載しています。
慶應クラスでは、構造ノートや構造議論チャートを使ってもっと詳しく細かく各学部の過去問解説を動画で行っています。
2006年度慶應大学経済学部 小論文過去問題解説
こんにちは。
牛山です。
本日は、2006年度慶應大学経済学部小論文問題解説です。
【1】問題A概要
この年は、遺伝情報に関する問題が出題されています。
課題文の概要は以下のようなものです。
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近年における科学技術の進展はめざましく、遺伝情報の解明も例外ではない。遺伝子の情報には、種々の疾病に関する情報も含まれる。これらを疾病遺伝子という。これらの情報は大変有益なものである。ある疾病の発症可能性がわかれば、それに対してなんらかの手を打つことができるかもしれない。出産を控えた母親がなんらかの疾病関連遺伝子を有した子を宿した時、妊娠中絶の道をとることも十分に考えられる。さらに、遺伝情報は、生命保険や各種疾病にかんする保険に利用される可能性を有している。保険会社は被保険者の疾病発症リスクを計算することができる。このように、遺伝子診断によって、私たち個体の将来についてより一層詳細な情報が得られるようになることは、科学的知見の大きな飛躍である。
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こんな内容の課題文が出題されていますね。
ところで、設問では以下のようなことが問われています。
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課題文では、遺伝子診断が人間社会に大きく貢献することが三つの事例によって主張されています。しかし、これとは逆に、科学の力によって遺伝情報が明らかになることから生じる問題もあると考えられます。三つの事例の中から一つを選び、説得的な反論を加えなさい。その上で、そうした問題を解決するのにどのような対策を社会的に講ずることが望ましいのかを模索しなさい。
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解き方(前半)
今回の問題は、今現在起こっている問題ではなく、将来起こる可能性がある問題を予想する問題になっています。
従ってある程度の想像力が必要になります。
将来何が起こるのかを想像してみましょう。
将来に何が起こるかを予測するには、過去に何が起こってきたかを見るのが一つのコツです。
このメルマガでも何度か紹介したことがありますが、、、、
勝間和代さんが、マッキンゼーに就職する際の面接で「将来電子マネーが普及すると思いますか」と問われたことがあるらしいのですね。
この時に勝間さんは「普及すると思います。」と述べた上で、その理由として、貨幣は常に人類の歴史をふりかえって見た場合、より便利なものへと形を変えてきたから、と述べたそうです。
将来起こることを、過去の出来事をまとめることによって予測しているわけですね。
言い換えれば、どのような原理原則がこの世の中を貫いているのか、その法則性を見出しているということです。
このように、将来を予測する際には、いくつかの「原理原則」から、予測することも大切です。
人間の行動原理や欲求、欲望をイメージするのもいいでしょう。
性善説に基づいて考えれば、誰もが理想的な社会的生活を送ってくれそうですが、人間はどの時代でも、全ての人が聖人君子のようによい人ばかりではありません。
そうすると、何かしら遺伝情報が明らかになることによって悪いことをする人も中には出てくると思われます。
あなたは、どのように考えますか?ここでご紹介した事例を参考に、イメージしてみましょう。
それでは、解答例をご紹介します。
解答例
遺伝情報が各種保険事業に利用され
るようになった場合、どのような問題
が起こるだろうか。仮に各種保険事業
者に詳細な遺伝子情報が渡るようにな
れば、遺伝情報の評価手法を不当に操
作することによって保険事業者にとっ
て都合のよい消費者評価が横行するよ
うになることが予想される。本来疾病
のリスクとは、被保険者がどの程度運
動食事に気を付け、自主的に行動管理
するかによっても左右されるものであ
る。これらの自己管理能力は遺伝的に
も評価可能であると考えられるが保険
事業者からすれば不確実性が高い評価
項目である。前述した事態が進展すれ
ば、生まれた瞬間から当人の生きるコ
ストが決するような社会が形成される
恐れがある。
解き方(後半)
後半の「設問の要求」をもう一度確認してみましょう。
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そうした問題を解決するのにどのような対策を社会的に講ずることが望ましいのかを模索しなさい。
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対策案を立案することを求められていますね。
対策案はどのように立案すればいいのでしょうか。ここについては、少し説明する程度では、説明しきることはできません。私自身、この点については世界最高の機関であると言われているマッキンゼーの手法を大学院で学んできました。
本来は何年もかけてこの力を磨いていくべきなんですね。
ただ、ここではある程度有効に機能しそうな方向性案を示せば十分ですのでちょっとした注意点とコツだけ解説します。
まず社会問題についてですが、社会問題に対する対策案を学生に問うと、多くのケースで、
「一人一人が気を付けていく」という努力目標を書いてしまいがちです。
今回の問題に当てはめますと、、
このような問題が起こる原因はそれぞれの企業に原因がある。従って各企業がこのような事態に陥らないよう・・・・・・
という流れになってしまうことが多いです。これはやってはいけません。
実社会で機能しないからですね。多くのケースでは、社会問題についての政策提言を行っていくと考えましょう。
考えるコツは以下のようなものです。
(1)対策案をいくつか考える。
(2)インパクトと実現性で評価する。
あまりごちゃごちゃ書くと、本番で考えることができなくなるでしょうから、これだけをテクニックとして覚えておきましょう。
対策案の有効性は、多くのケースで、二つの重要評価指標で評価できます。
一つはインパクトです。
どれだけ大きな社会的インパクトがその施策にあるかです。
もう一つは、実現性です。
実現できない提言は意味がありません。
この二つで、○、△、×でもいいので評価し、総合的に評価した上で、もっとも効果的な施策を選択し、解答しましょう。
それでは、後半の解答例をみてみましょう。
(5) 解答例
このような問題を解決するには、評
価手法の妥当性について国家が関与
し、妥当性が担保される仕組みが有効
であると考えられる。保険事業は国家
が推進する健康保険等のサービスと異
質な民間事業であったとしても、当該
国家の福祉レベルを決する産業に分類
される事業である。ゆえに、消費者金
融事業者に許可する法定金利があるよ
うに、一定程度政府による適切な評価
尺度と運営方針に対する指導がなけれ
ばならないだろう。従って仮に疾病遺
伝子が個人情報として保険料に反映さ
れるとしても、その程度が理不尽にな
らぬよう将来的には政府による政治的
判断及び適切な立法が必要であると考
えられる。
余談
今回は対策案の立案方法などをご紹介していますが、大変ざっくり、ざっくりしたものです。
対策案をもっともよく立案させる学部は総合政策学部です。
もっとやっかいな問題が出ることも珍しくありません。
私が運営する「慶應SFC特化クラス」では、この対策方法は、「問題発見」と、「問題解決」の二つの授業で詳しく解説しています。
膨大な量の重要なお話の内、極めて重要な部分を解説しているのですが、それだけでも、合計で約8時間程度はテキストで学んでいきます。
ビジネススクールで学ぶ本格的な内容を端的に学んでいくわけですから、さすがに圧縮してもこれくらいの時間はかかります。
あまりにもあっさりと、「コツ」という軽い表現で今回は受験生向けに解説していますので、念のために誤解されそうなのでお話ししました。
対策案の立案方法を学びたい人向けに本格的な内容を塾では学んでいきますよ。
大手上場企業の役員が弊社で学んでいる内容をみんなで学んでいきます。
【7】設問B概要
設問Bでは以下のようなことが求められています。
----------ここから----------
Aで述べたあなたの解答のうち、課題文への反論部分を解答欄Bに40字以内で要約しなさい。
---------ここまで-----------
端的にまとめることを求められています。
「要は」なんなのか?
ということを考えましょう。
「要は」という言葉を使っていくと、言い換えフレーズがさっと頭に降りてくることがあります。
経済学部ではこのような頭の働かせ方が大切になることが少なくありません。
長く書かせるより、短く書かせることを好みます。
端的に何がポイントなのかをキビキビとまとめていく能力を評価する傾向が強いですね。
課題文では、保険事業者は、遺伝情報が明らかになるので良いという内容になっていましたね。
この根拠をたたくように、頭を働かせることが大切です。
ポイントは、論拠をたたくということ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
理由は、論拠を叩かない批判というのは、極端な話、「お前の母ちゃんでべそ」などとケチをつけているのと変わらないことが多いからです。
あなたの反論レベルを引き上げる一つのポイントとして覚えておきましょう。
それでは、解答例を見てみましょう。
【8】 設問B解答例
保険事業者にとって都合が良い商品は、国家の福祉レベルを引き下げるリスクを持つ。
【9】編集後記:評価するということ
何かを評価するということは、大変難しいことです。
その理由は、何を評価基準とするかについて、多様な意見があるからです。
今回の問題解説では、保険事業者が、疾病発症リスクを評価する事例を扱いましたが、私たちが日ごろ何かを評価する際にも同じことが言えます。
あなたは何を評価するでしょうか。
少なくとも、評価をする際には、重要な評価基準がなければならないでしょう。
しかし、何を評価基準とすればいいのかも私たちは分からないことが少なくありません。
そうやって日々、判断が鈍っていくのです。
この点について、今ベストセラーとなっている「火花」という本では、批評家にならないことが大切という話が出てきます。
批評家になる人は、批評家のポジションを取ることによって何を失っているのでしょうか。
批評を始めると、「能力が落ちる」と本の中の登場人物は述べます。
何かについて、良い、悪いと評価をすることが主となると、何かを作り出していく力が失われる原理原則があるのかもしれません。
頭の働かせ方が逆になり、「どうするべきなのか」ということに感性が働かなくなるのです。
私は塾の中で、文章の感性論と、品性論を話すこともありました。小論文試験で磨いていくべき力の一つは、品性です。
品性というのは、一般名詞から意味を定義しないように気を付けてください。
私がここで「品性」と話しているのは一般的に社会的に品格があるかどうかという話ではありません。
感受性をどのようにアウトプットするべきかという繊細な部分の話です。
良い小論文の答案を作る人は、間違いなく、「品性」があります。その品性を磨くには、「感性」が必要なのです。
お笑い芸人の又吉氏がこの度芥川賞を受賞した「火花」は、このような学びを得る意味でも、素晴らしい書籍ですので、塾で課題図書の一つとして学びを深めていきます。