このページでは、メルマガで流した慶應大学の文系学部の小論文問題の解説を掲載しています。
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2001年度慶應大学経済学部 小論文過去問題解説
こんにちは。
牛山です。
本日は、2001年度慶應大学経済学部小論文問題解説です。
【1】問題1
(1) 問題
この年の問題では以下のようなことが問われています。
----------ここから----------
筆者は科学技術の発達をめぐって何を争点と考えているのかを、140字以上160字以内で述べなさい。
---------ここまで-----------
それでは、課題文の要約を紹介します。
----------ここから----------
世界の人口は、急激に増加し、21世紀に入った現在では、60億人に達したと推計されている。このような人口増加の背景には、食料生産の急激な増加がある。農業生産の限界を打ち破ったのが、近代以降の科学と技術の相互促進的な発展であった。機械の使用は、人間の能力の限界を打ち破って農地の拡大や工作の効率化を飛躍的に進め、品種改良や化学肥料、農薬の使用は、単位面積あたりの収穫量を飛躍的に増大させた。さらに遺伝子操作、遺伝子組み換え技術は、農作物の改良の範囲を大幅に拡大し、世界の食料問題や環境問題の解決に大きく貢献することを期待されている。しかし、他方でこれらの技術は農作物の安全性や環境への配慮を危惧されている。人口増加と食料問題の深刻さを考えると、遺伝子操作という技術の重要性を否定することは難しいように思えるけれども、だからといって安全性の問題を軽視することもできない。そもそも安全性の調査は、その時点で人間が想定しうる範囲内で実施するものであり、想定した範囲内で安全性が証明されたとしてもその範囲外でも安全であると断定することはできないのである。
(A)
安全であるとされていた技術が思わぬ危険性をはらんでいたことが後になって明らかになるという例は過去に少なからず存在する。
そのため、科学技術の発展を制御する必要があるという主張が支持を集めるようになりつつある。すなわち、科学技術固有の論理にゆだねているだけでは、科学技術はむしろ社会に困難や混乱をもたらしかねないほどの速度で発達する可能性がある。
(B)
それゆえ、社会がその成果を無理なく安心して受け入れられる速度に、社会の側が科学技術の発達を制御しなければならないというのである。
---------ここまで-----------
(2) 解き方
今回の問題では、「何を争点と考えているか」を問われていますので、この点について、ギュギュッと内容を圧縮しましょう。
必要に応じて言葉を補う、言い換えるなど、適宜文章を設計構築していきましょう。
注意点は、リスクについて考察することです。
今回の課題文では、科学技術を用いるかどうかだけを考察しているわけではありません。
科学技術を用いることで、リスクを評価していくことの危険性について、どのように対処していくべきなのかが最終的なこの文章の「落としどころ」になっています。
従って、最終的に争点になっている部分について、解答を作成していくことが大切です。
(3)解答例
科学技術には、効用とリスクがつきものである。現在の技術レベルで安全性を確実に推し量ることはできない。このように、科学技術の安全性と危険性について、科学技術固有の論理に任せた判断をするか、科学技術固有の論理に基づいた判断をしないかを争点であると著者は考えている。
【2】問題2
(1) 問題
課題文の下線部Aの趣旨に当てはまる例としてどのようなものがあるか。第二次世界大戦後の具体例を1つあげて、140字以上160字以内で説明しなさい。
下線部Aとは要約に(A)と書いていた部分です。再度掲載しますね。
----------ここから----------
(A)
安全であるとされていた技術が思わぬ危険性をはらんでいたことが後になって明らかになるという例は過去に少なからず存在する。
---------ここまで-----------
このような例を挙げることを求められています。
この問題については、事例を挙げるだけですので、早速ですが解答例をご紹介します。
(2)解答例
東日本大震災時の福島原子力発電所の事故が、事例として挙げられる。安全であるとされていた技術が、事実上の人災が原因で大きな事故につながったとされている。技術的に計算上は安全でも、科学技術による建造物の設計思想に問題がある場合、思わぬ事故につながることがある。
【3】 問題3
(1) 問題概要
課題文の下線部Bに関して科学技術の発達を制御する可能性について、特に現代における科学技術の発達が国際紛争や企業活動と深く結びついているという側面があることを考慮して[課題文]全体の結論になるように、360字以上400字以内で述べなさい。
下線部Bとは、要約の中で(B)と書いていた部分です。
(B)
それゆえ、社会がその成果を無理なく安心して受け入れられる速度に、社会の側が科学技術の発達を制御しなければならないというのである。
(2) 考え方
下線部Bは、「制御しなければならない」という考え方について書かれていますね。
科学技術の発達を制御しなければならないという考え方が、下線部Bの以下の部分と衝突します。
----------ここから----------
科学技術の発達を制御する可能性について、特に現代における科学技術の発達が国際紛争や企業活動と深く結びついているという側面があることを考慮して
---------ここまで-----------
つまり、どういうことかと言いますと、、、、、、、
「制御」しなければならない一方で、
「発展」させなければならない。
この相反する目標を両方とも考慮に入れなければ、誰もが納得する結論には至らなさそうです。
それでは、危険な科学技術を制御しつつ、発展を目指す・・・などということができるのでしょうか?
ヒントは「リスク管理」です。
「制御」しなければならない理由は、危険性にあるわけですから、ここで争点になっている問題の本質は、いかにして、リスクを管理するかということです。
さて、何か頭に浮かんだでしょうか。
「制御」しなければならない一方で、
「発展」させなければならない。
この目標を達成する考え方を少しだけでもいいので、考えてみましょう。
(理想は3分、最低10秒)
それでは、解答例をご紹介します。
(3) 解答例
一般的なリスクマネジメント論の分野では、リスクを計算の対象として、各種施策にポートフォリオを組むことが妥当であるとされている。ハイリスクハイリターンの案件と、ローリスクローリターンの案件を組み合わせることで、最適な成長スピードとリスク管理を同時に実現可能である。しかし、本稿で述べられているように、このような目算はあくまでも何を計算の対象とするかによって変わってくる。現に原発事故は人災が原因で起こり、計算外の要因が大惨事を招いたのである。北朝鮮の核保有問題は深刻な国際紛争の火種となっている。また、現代において企業活動はグローバル化しており、大気汚染問題は国境をまたいで被害を拡大している。私たちは、科学技術により発生するリスクをコントロールできているとは言えない。
それゆえ、社会がその成果を無理なく安心して受け入れられる速度に、社会の側が科学技術の発達を制御しなければならない。
【4】編集後記
私たちが受験する際にも、一本釣りするように、大学を受験するとどうしても危険性が上がります。
そこで、私は複数の大学を受験することを東大第一志望受験生以外にはお勧めしています。
難関大学であっても、複数受験で、確実に合格率は上がります。
受験業界には、根拠のないアドバイスは多くなりがちです。私は受験業界で初めて確率計算に基づいて、併願戦略を説きました。
早慶に合格したいのであれば、「難関私大対策の急所」を読んでください。原理的に合格率が上がります。
慶應に合格したいのであれば、「慶應大学絶対合格法」を読みましょう。
私が説いた慶應、早稲田受験戦略は、計算に基づいたものです。
原理的に合格率が上がりますが、この点には目をつぶり、他の些末な論点に着目して、ケチをつけるような言説を目にしたことがあります。
一定程度の新規性がある部分に目をつぶることや、確実に科学的な部分について無視することで、「確実性」や「新規性」があたかもないように、述べるのは、大変感情的な反応と言わざるをえません。
努力が実りやすくなる方向性案は存在します。
その戦略軸を取れば、誰でも合格しやすくなるでしょう。
まだ手にとっていなかった人は早慶や慶應を受験するのであれば、大変な損失ですから、ぜひ手にとって確認することをお勧めします。
秋口になって、他の勉強方法でがんばっていた人が、(あれ、おかしい、全然力がついていないらしい)ということでパニックになることがよくあるようです。
私の本をたくさん読んでいる人は、十分に理解しているようですが、これは、「記憶に関する問題解決」ができていないのです。
また、受験生は、何かが一つうまくいかない場合によくパニックになりがちです。
そういう時に、何が原因でうまくいかないのかについて勘違いした人は失敗しやすく、勘違いしない人は、うまくいきやすいのです。
なぜうまくいかないのか、少し考えてみることが将来を変えます。
このメルマガが何かのヒントになれば幸いです。