このページでは、メルマガで流した慶應大学の文系学部の小論文問題の解説を掲載しています。
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2007年度 慶應大学看護医療学部の小論文問題解説
こんにちは。
牛山です。
本日は、2007年慶應大学看護医療学部 小論文問題解説です。
【1】問題1
(1) 設問の要求
文中にある「感受性の貧しかりしを
嘆くなり倒れし前の我が身我がここ
ろ」の作者の思いについてまとめな
さい。
(2) 課題文の概要と考え方
課題文は、病気になり、倒れることで意識が変わり、世の中の見え方が変わることについて書かれた文章が出題されています。
作者が詠んでいる短歌は、病に倒れる前の自分は、感受性が貧しかったという内容です。
そのことを嘆くと同時に、今病に倒れてはいるけれども、世の中の見え方が変わり、自分が成長していることを実感していると言えるでしょう。
問題の解き方としては、看護医療学部によくあることなのですが、文学部に近い文章のまとめ方が必要です。
適宜、必要な部分を、場合によっては抜粋し、時にはまとめ、言い換えるように、文章を作っていきましょう。
(3) 解答例
病気で倒れる前と、倒れた後では、
物事の見え方が違う。病に倒れ、状態
がひどいときには、自分は半分ほど死
んだように感じており、死者と生者が
両方自分の中に生きているような感覚
があった。健康な時には、思い上がり
があったのではないだろうか。常に競
争相手や締め切りを意識して仕事をす
ることで、「金力・名声・権力」をめ
ざした競争を多かれ少なかれやってい
たのではないだろうか。このような状
態は自分の感受性が麻痺していたよう
なものである。病に倒れ、半分死に、
半分生きているような状態となった時
に、自然の事物を非常に鋭敏に感じ取
ることができるようになった。病に
倒れる前の感受性の鈍さを今は嘆かわ
しく思う。
【2】問題2
(1) 設問の要求
ここに述べられている内発的発展論について、あなたの考えを述べなさい。
(2) 課題文の概要
内発的発展論とは、外からの刺激ではなく、自分の中からの考察や思索、ものの感じ方などを通して、自分の精神が発展していくことを指しています。
著者が詠んだ短歌を思い出してみましょう。
このように、物事の感じ取り方が変わり、それを契機として、さまざまな考察方法や、考察過程が変わり、人間としても成長していくことを含めて、内発的発展論という考え方が生まれていると考えましょう。
この内発的発展論について、今回は、「あなたの考えを述べなさい」とありますので、ある程度、どのような方向で考えてもいいでしょう。
ただし、作問者が大切にしている問題意識からはあまり離れないようしましょう。
(3) ヒント
物事の原因は通常あまり適当には考えないことが大切です。
その理由は、通常何かの問題が発生する原因は数十から数百あるのが普通だからです。
したがって、その中の原因はこれだ!と、述べても、新規性がないばかりかその考察は、外れている可能性もあります。
このような考察過程で書かれた小論文は、その性質上論文ではなくなりやすいのですね。
ただし、今回の問題の場合、もともと科学的に分析することがそもそも妥当かどうかも、疑わしい領域についての論考であり、ある意味では哲学的であり、同時に、形而上にも足を踏み入れた論考になる可能性があります。
このような問題の場合、そこまで論理や科学に偏った考察を必ずやらなければならないわけではありません。
したがって、
原因や背景について、一定程度考察することも許されるでしょう。
(4) 解答例
著者が述べる内発的発展論につい
て、私は価値意識の変革が根底にある
と考える。
人は死ぬときに、若い間に大きな価
値を感じたことに、あまり価値を感じ
なくなる。富や名声は、自分が死ね
ば、意味のないものだ。病者は、死を
身近に感じるため、人生に必要なこと
に早く気づき、感じ取る傾向がある。
著者が述べる感受性とはこのことを指
す。私は病気で何度も死にかけ、何年
間も社会生活を送ることができなくな
った経験がある。健康になることがで
きるとは、その当時私は考えられなか
った。普段健康な時には考えることが
難しかった生きる意味と価値を、病気
を通して初めて人はリアルに感じ取
り、考察するようになる。換言すれ
ば、このような思考と感受性の変化
は、価値意識の変革に基づいている。
人は病気で倒れることを通して、従来
価値を感じていたものに価値を感じな
くなり、従来価値を感じなかったもの
ごとに大きな価値を感じ取るようにな
る。具体的には、生の意義や道義的に
重要なことに意識が向かい、価値を感
じるようになるのである。
以上の理由から、私は内発的発展論
の背景には、価値意識の変革があると
考える。