このページでは、メルマガで流した慶應大学の文系学部の小論文問題の解説を掲載しています。
慶應クラスでは、構造ノートや構造議論チャートを使ってもっと詳しく細かく各学部の過去問解説を動画で行っています。
2005年度 慶應大学看護医療学部の小論文問題解説
こんにちは。
牛山です。
本日は、2005年慶應大学看護医療学部の小論文問題解説です。
【1】問題1
この年は、「個」と「集団」の関係についての問題が出題されています。
「個」って何?
「集団」って何?
と思いますよね。
「個」というのは、生物学的な視点から見た場合の、細胞ひとつ一つや、生命体一つ一つのことです。
一つ一つの細胞が、生まれて、死に、その結果人間という一つの生命体が活動できるわけですね。ここでは、生命体が集団です。
また、例えばハチという種は、多くの「個」としての、働き蜂がいて、働くことにより、そのハチという種の「集団」が存在できますね。一匹のハチが犠牲となり、死ぬことがあっても、全体は子孫を残して生き残ります。
さらに、特定の生態圏である、池があったとして、、、、
この池の中で「個」は多くの生物です。例えば、トンボ、魚、タガメ、おたまじゃくしなどです。これらがあつまり、生態圏としての「集団」が生まれるわけですね。
このようなことを考察する課題文が出題されています。
問題を見てみましょう。
----------ここから----------
著者は個と集団の関係をどのようなものとして考えていますか?300字以内で説明しなさい。
---------ここまで-----------
【2】解説
典型的な説明問題ですので、課題文の中から該当箇所となる文章のパーツを探し、組み合わせることで、説明を試みます。
以下の文章は牛山が適宜適当な表現に変更したものですが、課題文の中で語られていることです。
以下の5つの要素が含まれていることが大切です。
(1)個々の要素の性質をそのまま加え合わせても、全体の性質が出ないという非線形によるものが生命体である。
(2)生命体はモザイク的集合ではない。
(3)特定の種における個の存在は種の存続に貢献するものである。
(4)生態系における個の存在は、特定の生態系内において、多様な相互作用を生む。
(5)個と全体は共生関係にある
このようなことが課題文で述べられています。
前述した1~5は、ズルズルと述べられている部分の中で、もっとも大切な部分です。
それでは、解答例を見てみましょう。
【3】問題1 解答例
個々の要素の性質をそのまま加え合
わせても、全体の性質が出ないという
非線形によるものが生命体である。こ
のように生命体はモザイク的集合では
ない。特定の種における個の存在は種
の存続に貢献するものである。同様に
生態系における個の存在は、特定の生
態系内において、多様な相互作用を生
む。個は不適となった場合に淘汰さ
れ、適応した要素が拾い上げられる。
こうして全体の生態系が存在しうる。
このように、個と全体は共生関係にあ
るのが生命の姿である。
【4】問題2
問題2では、以下のようなことが問われています。
----------ここから----------
個と集団の関係に関して、人間社会で生じている具体的な問題を取り上げ、それについてのあなたの考えを600字以内で述べなさい。
---------ここまで-----------
【5】解説
ここでは、人間社会で生じているという条件がついていますので、人類に関して生態系のシステムがいかに働いているかを考察するのがよいでしょう。
人間を「個体」として見て、人類を「集団」として見てもいいですし、人間を「個体」として見て、地球上の生物を「集団」として見てもいいでしょう。
少しだけ考えてみましょう。
----------ここから----------
個と集団の関係に関して、人間社会で生じている具体的な問題を取り上げ、それについてのあなたの考えを600字以内で述べなさい。
---------ここまで-----------
どのような問題があるでしょうか。
その問題について、今回の
課題文で得た学びを加えてください。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「個」と「全体」は共生関係にあるというのが、課題文での学びでしたね。
この課題文での学びから何が言えるのかを考えてみましょう。
考えてみたでしょうか。
それでは、解答例をご紹介します。
【6】解答例
個と集団の関係に関して、人間社会
で生じている具体的な問題として、私
は少子化を取り上げたい。
人間は種という観点から見た場合、
生物学的には大きく成功を収めた種と
言える。人間は、個としての力は弱
い。人間は、大型肉食動物には捕食さ
れる対象となり得る個体である。しか
し、人間は言葉と文字を発明し、他の
個体との共生関係を築くことにより、
食料の貯蔵技術、共有システム、人類
にとってより安全な社会基盤等を構築
した。このように生物学的見地から見
た場合、大きく成功したかに見える種
の繁栄に今陰りが見えている。世界的
な人口減少問題である。地球という惑
星から森林、動植物、海洋産物を搾取
し続けた人間は、その搾取の対象を人
類にまで向け、格差社会を生み出し
た。近年トマ・ピケティーが指摘する
ように、人類が生み出す経済的生産性
は、人類が発明した貨幣・金融資本が
生み出す生産性を上回らなくなってい
る。換言すれば、人間が資本を利用す
ることで人間を搾取することを可能に
している。世界的に進行する所得格差
は、安心して子供を産み、育てる環境
を奪っていると言われている。人間は
その頭脳により食物連鎖の頂点に立っ
たが、生物学的見地から見れば、「事
実上の共食い」をし始めていると言え
る。本来自然界の動物が共食いをする
のは、食料に困った時だけであるが人
間はそうではない。人間という種が抱
える課題は、底なしの欲望への対処で
ある。
【7】編集後記
人は欲深い生き物ですね。寄生獣というベストセラーになったマンガが、実写化されて映画になりました。
この寄生獣というマンガは、読んだ事がある人は知っているかも知れませんが、地球外生命体が人間に寄生し、人間を捕食するというSFものです。
その寄生獣と呼ばれる地球外生命体は人体に寄生し、脳を奪い取り、人の言葉を話します。
その時のセリフが特徴的なのです。
いわゆる「モンスター」が寄生獣なのですが、この寄生獣は、人を補食し食物連鎖の頂点に立っていると表現が可能ですよね?
人殺し、モンスターと表現可能なのですが、ある寄生獣が次のようなことを言います。
-------------ここから-------------
「人間は、牛も豚も鳥も魚をも食べ、ありとあらゆる種を食い殺している。それに比べれば人間一種のみを食べる行為は慎ましいではないか。」
-------------ここまで-------------
人間という種から見ると、奇妙に聞こえるこの言い分は、作者のなんらかのメッセージなのかもしれません。
このマンガの最初の1ページかどうかまで、記憶は定かではありませんが、映画版はこんなセリフから始まります。
-------------ここから-------------
人間の数が半分になれば…燃やされる森の数も半分になるのだろうか…?
人間の数が1/100になれば…垂れ流される毒も…1/100になるのだろうか…?
地球上の誰かがふと思った…
みんなの未来を…守らなければ…
-------------ここまで-------------
以下のようなセリフもマンガで語られます。
(寄生獣のミギーという生命体)
「新一は同種が食われるのが何故そんなに嫌なんだ?」
(主人公のシンイチ)
「は?分かんねーの?人間の命は尊いんだよ」
(寄生獣のミギーという生命体)
「尊いのは自分の命だけだ。」
大変有名なマンガなので、読んだことがある人も多いと思いますが、映画も面白かったですよ!
勉強に疲れたら(グロイですが)見てみるのもいいでしょう。