このページでは、メルマガで流した慶應大学の文系学部の小論文問題の解説を掲載しています。
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2005年度 慶應大学文学部 小論文過去問題の解説
こんにちは。
牛山です。
本日は、2005年度慶應大学文学部小論
文問題解説です。
【1】問題1
(1) 課題文概要
今回の問題は、個性論です。
個性ってなあに?
ということについて書かれている文章ですね。
かいつまんで、文章の内容を端的に示すと、以下のようなことが書かれています。
----------ここから----------
一般的に、多くの学生は、個性を、生まれた時から自分に内在しているものだと考えている。
しかし、本当はそうではない。成長していく中で、他者との違いの中で認識されていくものが個性なのだ。
ところが、現代の若者は、その時その瞬間の刹那に感じた内発的な感情を表現することが個性であると考える傾向がある。
このような反応をしていると、個性とは普遍的なものであるはずなのに、その自分の個性を感じられず、焦燥感が生まれてくる。
---------ここまで-----------
概ねこのようなことが書かれています。
限界まで圧縮しています。
(1) 問題概要
----------ここから----------
なぜ傍線部のパラドクスが生じることになるのか
---------ここまで-----------
ということが問われています。
傍線部には何が書かれているかと言いますと、、、
ちょっと見てみますね。
----------ここから----------
生来的な属性に個性を感じる人びとに
とって、その個性はダイヤの原石のよ
うに固定的なモノとして感受されてい
ます。ところが、そこから派生した
内発的な衝動を重視するメンタリティ
は、自己意識を断片化していきます。
ここに、自分の個性は普遍的な実在で
あるはずなのに、それを実感できない
断片化した自分という
パラドクス
~~~~~~~~~~~~
(逆説)が生じることになります。
個性とは一貫したもののはずだという
幻想が、逆に焦燥感を高めていくので
す。
---------ここまで-----------
※改行は牛山によるもの。テキストで分かりやすく見せるために便宜的にそうしています。
で、問題は、なぜ傍線部のパラドクス(逆説)が生じるのか?
という問題だったのですね。
(3) 解き方
一般的な説明問題は、多くのケースで傍線部の前と後ろ10行程度を見ていけば、答えがあります。
それを入れ込み、文章を作ればOKなんです。
不自然な文章にならず、過不足なく重要な要素を入れ込み、文章を作っておけば解くことができます。
ところが、今回はそれではいけないパターンですね。
思いっきり、傍線部の前後に、解答に入れ込むべき要素があるのは一目瞭然なのですが、そこに書かれていることが抽象的なので、ある程度噛み砕く必要があります。
どうやって噛み砕くのかと言いますと、文章全体から少しずつパーツをもらってくるイメージです。
つまり、各段落から「解答要素」となる、説明的な文章のパーツをもらってくるということになります。
ただ、これができるかどうかは、文章の全体像を読み取っているかどうかにかかっていますので、きちんと細部に囚われず、文章全体を読み取る必要があります。
それでは解答例を見てみましょう。
(4) 解答例
本来、自らの個性を見極めるために
は、他者との比較が不可欠である。し
かし、現代の若者は、個性を他者との
比較の中で自らの独自性に気づき、そ
の人間関係の中で培っていくものでは
なく、ダイヤの原石であるかのように
考えている。このような他者の存在が
希薄な個性の捉え方は、社会化による
成長という概念が欠落しているように
思われる。その結果自分の感情を放出
することを自分らしさだと感じはじめ
るのである。同時に、自らの身体的な
感覚を重視し、心や感情の動きといっ
たものも、その身体感覚と同質なもの
として捉える傾向を強めてしまう。し
かし、この刹那的な感情の発露は、そ
の持続性と統合性を維持できず、自己
意識が断片化する。この結果、「個性
を感じようとする行動」が「より個性
を感じさせなくなる」という逆説が生
じる。
(5) 解説
解答例の最後の部分を見てください。
----------ここから----------
「個性を感じようとする行動」が「より個性を感じさせなくなる」という逆説が生じる。
---------ここまで-----------
と、ありますね。
このように、逆説がなぜ発生するのかと問われているわけですから、その構図を見せてやる(説明する)必要があります。
ここがイメージできれば、前の部分の文章は、この最後の落としどころにつながるように設計すればいいということになります。
【2】問題2
(1) 問題概要
設問2では、以下のようなことが問われています。
----------ここから----------
次に掲げるのは、この文章のすぐ後に筆者が引用している、ある少女の投稿です。この投書が仮に新聞の相談コーナーに寄せられたものであって、あなたがその回答者ならば、この相談に対してどのように回答しますか。
私は自分らしさというのがまったくわかりません。付き合う友達によって変わってしまう自分、気分によって変わってしまう自分を考えると、いったい何が本当の私なのか分からなくなります。自分には個性がないんじゃないかとずっと悩んでいます。
---------ここまで-----------
(2) 解説
この問題の考え方ですが、これは本文で語られている内容そのものですね。
本文の「限界圧縮内容」を紹介するとこのようになっています。
----------ここから----------
一般的に、多くの学生は、個性を、生まれた時から自分に内在しているものだと考えている。
しかし、本当はそうではない。成長していく中で、他者との違いの中で認識されていくものが個性なのだ。
ところが、現代の若者は、その時その瞬間の刹那に感じた内発的な感情を表現することが個性であると考える傾向がある。
このような反応をしていると、個性とは普遍的なものであるはずなのに、その自分の個性を感じられず、焦燥感が生まれてくる。
---------ここまで-----------
この問題では、文章の理解力等を総合的に評価する問題であると考えられます。
従って、この文章の内容から発展させて、アドバイスができるかどうかを見られていると考えていいでしょう。
(3) 解答例
自分には個性が無いのではないかと
いうことで悩んでいるのですね。決論
から言えば、大丈夫です。心配はあり
ません。今は、いろいろな自分を感じ
ることがあり、いくつもの人格やいく
つもの自分の感じられ方が、分裂して
いるように感じているかもしれませ
ん。しかし、その心の感じ方は自然な
もので、誰にでも感じられる現象で
す。
本来心の在り方は、環境や状況によ
って変わるものです。そして、個性と
は、自分の中から湧き上がってくるも
のではなく、他者との比較の中で、自
分の独自性として、育っていくものな
のです。ですから、今の時期は、出会
う人が少なく、自分の個性を感じにく
いかもしれません。しかし、これから
大人になるにつれて、多くの人と出会
い、その中であなたの自分だけの個性
を感じることになるでしょう。