慶応大学の小論文過去問題解説

 

 

 

~お知らせ~
北海道大学大学院に合格した方から、
合格のメッセージが届きました。合格
おめでとうございます!

 

こんにちは。牛山です。

今日は2012年度の慶應大学の法学部の
問題を解説します。ご興味がない方は、
この時点でメールを閉じていただけれ
ばと思います。

今回の問題も面白い問題でしたね。

未来国家をテーマとした二つの課題文
があり、その課題文について共通する
考え方をまとめた上でその考え方に対
する擁護と批判の両方を展開するとい
う面白い問題でした。

今年受験された方は、いかがだったで
しょうか。

この二つの文章に共通する考え方とは、
法の代替手段を模索するというものです。

もう少し別の言い方をすると、法に代
わる統治機構の枠組みを模索する、と
言ってもいいかもしれません。

 
課題文の1と2はは、大まかに言うと、
科学技術が進歩しても、人間の側の不
完全性ゆえに、問題が起こる仕組みに
ついて書かれています。

1つめの文章は脳波や、表情から、思
考を分析し、不適切な思考を抑制する
人間性を形成する未来国家の在り方に
ついて述べられています。

二つ目の文章は遺伝子工学の発達によ
って、人間性の選別や操作を可能にす
る未来社会の在り方について述べられ
ています。

この二つの文章に共通するのは、科学
技術の発達による、法以外の統治(機
構)の在り方を模索する事と言えます。

つまり今回の問題は、大きく分けて
法律と人間と、科学技術(システム)
の3点から統治機構の枠組みを模索す
る内容となっています。

 
今回の課題文は、近代国家の思想と歴
史をテーマにした文章から抜粋された
ものです。

この文書の中では、考察の為の材料と
して、空想小説を題材として扱ってい
ますが、その小説の中には、人間社会
が抱える本質的な問題が示唆されてい
ます。

社会の統治機構のための1手段として、
法の枠組みを用意することは、理想的
な社会の形成という観点から見て多く
の問題を抱えていますが、少なくとも
今回の課題文の中にあるように他の代
替手段に比較した場合、優れていると
いうことができるのかもしれません。
概ね、このような考え(思想)が出題
者の中にあり、恐らくは作成された問
題ではないかと思います。法学部で出
題されていることを考えれば、自然で
すね。

その意味では、まず最初に法の代替手
段を模索することを擁護しておいて、
そのあとに、その考えを論破するよう
な内容になっていれば、合格だろうな
あという合格のイメージが重要です。
相手の価値観を否定すると、論理的に
文章を組んでも、少ない文字数で人の
価値観を変えることはできませんから、
実質的には評価は得にくい性質がある
んですね。

これは脳科学的な問題ですから、仕方
がありません。人間は、過去の体験し
た感情と記憶を関連付けて、物事を評
価判断する生き物なんですね。これは
採点者とて例外ではありません。過去
の感情を伴った記憶とは、法学部の人
であれば、法律に対する愛着心であっ
たり、法に対する特別な感情です。こ
れらもふまえて、出題意図を見抜き、
何を言ってほしいのかまで分かれば、
出題意図や、全体の問題の趣旨、など
の理解の助けになります。(詳しくは
小論文技術習得講義 エール出版社をお
読みください。)

このように、試験そのものの性質やそ
の大学の性質、学部の性質や、出題意
図や論理の性質、小論文試験そのもの
の性質などから総合的に多面的に比重
で判断を加えていく事は、少ない時間
と情報量で、判断の精度を引き上げる
際に極めて重要なポイントです。

さて、それでは、少し脱線しましたの
で、試験の内容に話を戻します。あと
はその形(まず最初に法の代替手段を
模索することを擁護しておいて、その
あとに、その考えを論破するような内
容になっていれば、合格だろうなあと
いう合格のイメージ)

を,大切にしながら細かい論点を整理
した上で論理的に文章を組み立て説得
力がある形で論理的に文章を展開でき
れば、点数を確保することができます。

論理的な文章とは、いろいろな側面が
ありますが、一つにはきちんと演繹や
帰納という論理の性質から言って矛盾
の少ない、文章のことです。細かい事
例がなければ、説明が困難ですので、
今回は省きます。

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●賛成の立場のポイントとは
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それではまず最初に、最重要論点につ
いての賛成の立場の場合のポイントを
見ていきましょう。

 
1、法の不完全性
2、人間の不完全性
3、統治機構(システム)の不完全性

の3点を論拠として、法の代替手段を
模索するという考えを擁護するのは、
一つの方法です。

まず、法の代替手段を模索するという
ことは、法そのものやその法を作り上
げている人間に問題があることを論証
しなければ、説得力がありません。

したがって論理的に物事をフレームワ
ークで考えると、法という制度面と、
その制度の作り手、そして、その法を
運用する社会面は、重要な論点として
浮かび上がってきます。

帰納法で、論理的に説得する為に、こ
れらのポイントを根拠(論拠)として、
法の代替手段を模索するという考えを
擁護することができれば、評価が得ら
れます。

※今回は論理に関する基本的な知識あ
ることを前提に解説をしています。論
理等についての基本的な説明をし始め
るとそれだけで2時間くらいかかりま
すので。

ちょっと具体的に(ちょっぴりリアル
に)つらつら述べてみましょう。小論
文の解答風には述べませんよ。

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例えば現在の日本の統治機構は、どう
でしょうか?なぜ我々国民の税金は今
も上がり続け、社会保障が切り捨てら
れ、年金の受給率も上がっているので
しょうか。それに対して官僚の給与は
下がらず、身分が保証され、公益法人
が作り続けられ、血税がそこに投入さ
れて、不必要な法律が作られ、官僚と
その官僚と癒着した企業に税金が流れ、
その代償として国の借金は増え続け、
税金が上がり、社会保障の無い国にな
ってきています。

日本の税率の高さは、総合すると世界
一です。世界一の重税国家、福祉はレ
ベルが低い国。これが現実です。国家
破綻すると言われています。日本国が
破たんすればハイパーインフレとなり、
我々の貯金は紙くずとなり、日本の経
済は壊滅的な打撃を受けるでしょう。
もう立ち上がれないほどに大きな打撃
を受けるのではないかと言われていま
す。その時に日本は今よりより一層貧
しくなることが予想されます。

法治国家日本の末路はなぜこのように
なってしまっているのか?

その最大の原因は、日本国家の中枢に
問題があると指摘する人がいます。
官僚政治となっている為です。日本の
中枢で法の細部を書き換え、利権の構
造が、国民の手の届かないところでコ
ントロールできるようになっているこ
とに本質的な問題があります。

官僚の人事を決定する人事院や、その
人事院の統治機構、その人事院が財務
省によって天下り先を提供されている
ことや、その見返りとして給与を自由
に決定する権限が官僚に与えられてい
る事、国家の会計にメスを入れる会計
検査院、その会計検査院と司法、行政、
立法などの分権化された日本の統治機
関との関係性、本質的な問題がこのよ
うなところに或るために、法が機能し
ておらず、理想的な社会とは、逆方向
へと、社会の舵がきられている・・・

 

こんなことは、一般的には言われてい
ますね。

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こういう法の機能性についての問題は
慶應の法学部に進学して、政治家にな
ってからがんばってください。

(気になるという人はですね。)

 

 
上記のような現実重視の言説は、総合
政策学部受験で評価される言説です。
法学部では、法がより高く評価されな
ければ、当然ですが点数が低くなりま
すから注意しましょう。

公務員の制度改革などに興味がある人
は、官僚の責任という本を読んでみま
しょう。ベストセラーになっています。
どんな国でも、政治の汚職はあります。
各国いろいろな形でこの手の問題が解
決されつつありますが、日本など比較
にならない国もあり、大変世界的に見
て複雑な問題ですね。近年では、ソー
シャルネットワークの力によって、改
善に向かう事例がちらほらあります。

インドのアンナハザレ氏の活躍などは
その典型です。政治家に対する怒りが
ソーシャルメディアを通じて、一気に
100万人規模で伝わる時代になりま
した。国家とソーシャルメディアは切
ってもきれない関係にあると言えそう
です。

官僚の責任という本では、東大の法学
部卒のスーパーエリートが日本の官僚
機構を支配していることや、学閥と日
本政治の関係性などがよく分かり、さ
らに本質的にどのような問題があるの
かが学べます。東大法学部の中のさら
にその中のトップ層が、あらゆる官僚
機構の頂点に位置する財務省に入省で
きるような形になっているんですね。
もともと、東京大学は官僚養成校とし
て設立された大学です。

慶應は、実学を志向する学塾として設
立された大学です。それぞれの設立趣
旨によって理想的な人材像が違い、受
験の際の学生選定基準も違うというこ
とは小論文を書く際に念頭に置いてお
く必要があります。

官僚は東大、財界は慶應、法曹界は中
央というような、住み分けの色合いが
ある程度実質的にはあるかもしれませ
ん。

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●反対の立場のポイントは
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法の代替手段を模索することについて
の、反対の立場のポイントは、何でし
ょうか。

着眼点のポイントの一つは、帰納法的
には、この論証は難しいと言う事です。

そもそも、この世の中に存在しない事
柄(完全な統治機構)の空想について
の、考えですから、一つ一つ、証拠を
挙げて、完全な世界がダメである事を
帰納法的に論証する事は難しいですね。

ということは、演繹的に、原理原則と
して一般化された共通認識から、これ
らの空想の完全な統治機構が存在しえ
ないことを論証する事を試みる方がは
るかに有効です。

完全な統治機構のあり方の前提となっ
ている、その人間が本質的に不完全な
生き物であるということ。その不完全
な人間が作るシステムが、不完全であ
ること。

これらの共通見解から、演繹的に科学
技術による完全な法に代わる統治機構
を模索する事の愚を説けば、評価を得
られます。

今回の課題文は途中で文章が終わって
いますが、このような完全な科学技術
による理想の統治機構のあり方は、主
権国家体制が敷かれている現代社会で
は実質的に不可能だろうということを
示唆する内容になっていますね。

独立した国家が多数集まって形成され
た世界が前提となっているので、この
誰もが否定しえない一般原則から、演
繹的に考えれば、理想の科学技術によ
る法に代わる統治機構の在り方は不可
能だろうということを少なくとも出題
者は考えているのでしょう。

帰納法と演繹は紙一重ですから、この
ような一般原則、今回は3つの前提を
挙げましたが、

1)人間の不完全性
2)不完全な統治機構(独立主権国家による社会)
3)その不完全な人間が作る科学技術や、システム

この3点を論拠として、法の代替手段
を模索することを否定してもOKです。

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●ご注意
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今回の解説はあまり小論文に慣れてい
ない人には、少し難しく感じたかもし
れませんが、きちんと少しずつ小論文
を勉強していけば、簡単に感じられる
ようになりますので、ご安心ください。

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慶應クラス

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●補足説明:価値観について
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今回の問題をメリットやデメリットと
いう功利主義的な観点から考察し、そ
のメリットやデメリットを述べるとい
う事も可能です。

今回の解説ではそれをしませんでした。
法の代替手段を模索したり、法の無い
社会を考察する際に、妥当な考察のポ
イントは、単にメリットやデメリット
という功利主義的な観点ではないから
です。法は果たしてメリットの為だけ
に存在するのでしょうか?もちろんそ
うではありません。道義的な観点から
も理想的な社会を形成する為に法は存
在しているという前提がありますね。

ということは、功利主義的な観点から、
論証を試みるという事は、法そのもの
の趣旨や前提を理解していないという
ことであり、レベルは低い論証になっ
てしまいます。

課題文は全体として、人間、法、科学
技術によるシステムという風に、それ
ぞれの性質面から考察を展開していま
すから、その論点を外さないという意
味でも、本質的な性質から考察して何
が言えるのかということを論証する事
が望ましいわけです。

概ねこのような理由から、今回の解説
ではことさらメリットやデメリットを
書きませんでした。

いちいち試験会場でこのような事を考
えるわけではありません。私も今回の
問題を解説をする為に頭の中で説きま
したが、自分が文章を読むときにはも
っと感覚的に比重で物事を考えています。

今こうやって解説の文章を書いている
のは、その思考を言語化してみなさん
に見せているだけなんですね。



下の写真は今回の問題を読解する時に
私が書いたメモです。解答力を鍛える
と、難しい文章も読みやすくなります。

慶應クラス では、読解力強化の為の指導も行っています。

 

 


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●解答例
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 未来国家Ⅰ及び、未来国家Ⅱに共通する考え方は、科学技術を用いて社会秩序の安寧を志向することである。未来国家Ⅰでは、電気ショックにより人間の思考を制御することを目指し、未来国家Ⅱでは、遺伝子工学により、人間性を改造し、遺伝子的に優れた人間を増加させる仕組みを作る国家を目指している。
 未来国家IⅡを擁護する。未来国家の利点は二点ある。第一の利点は社会秩序の改善である。未来国家に描かれる世界では、犯罪が減少し、同時に世の中に起こる数多の不幸が減少していくことが予想される。第二の利点は、理想的な統治が行われる可能性である。為政者が理想的な政治を行うようになれば、現行の世界各国で行われている癒着に基づいた非効率的な政治体制が減少することを期待できる。

 次に、未来国家ⅠⅡを批判する立場で論じる。そもそも政治とは、暴力から国民を解放し、権利の衝突の調整役のために存在するものである。未来国家の利点の内、理想的な政治が行われる可能性というメリットは機能しない可能性がある。国民の監視が無くなるためである。私が未来国家ⅠⅡを批判する理由は大きく3点である。第一の理由は統治性にある。未来国家では、民意が反映されない。遺伝子や電気ショックの操作基準は、物事の評価基準そのものであり、その評価基準こそが政治哲学における共通善である。しかしながらこの共通善の思想が機能する仕組みが未来国家にはない。暴政を防ぐ仕組みが無く、人類が築いた三権分立制度等の社会調整システムが存在しない。第二の理由は基本的人権の侵害である。未来国家では、思想、行為の自由が極度に制限される。安全面のみに特化した『不適切なバランスの人権が保護されるだけの仕組み』となっており、人権侵害が野放しとなる。第三の理由は危険性である。ここまでに述べたように、未来国家では社会調整の仕組みが無く、人権が侵害され、同時に民意が反映されず、政治から哲学が消える。立法に間接的に国民が関与する仕組みが無くなり、為政者の暴走を食い止める機能が無い。言うまでもなく極めて危険な社会秩序構築の方向性案だと言えよう。以上、統治性、基本的人権の欠如、統治機構としての危険性の理由から、未来国家の構想に対して、私は反対の立場を取る。

 

 

 

 

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