小論文のフレームワーク思考法

 

 

T 最初に

 

1 フレームワークを小論文の世界に持ち込んだ

 牛山 恭範著(2012)『慶應小論文合格バイブル』(エール出版社)を執筆した際に、私は恐らく日本で初めて小論文の世界にフレームワークを持ち込んだ。フレームワークとは、簡単に言えば、「思考の枠組み」のことであり、この思考法を用いることで勘や憶測に頼った思考ではなく、一定の質を保つ思考を行いやすいメリットがある。

 従来は、小論文とはあくまでも書く試験であり、書くための知識を頭に詰め込む勉強法が一般的であった。この傾向に異を唱え、「小論文は考える試験である側面が強いこと」を指摘したのは、牛山 恭範著(2008)『小論文技術習得講義』(エール出版社)である。
 その後大学院入試受験生・慶應大学受験生向けに『慶應小論文合格バイブル』を上梓した。この際にフレームワークを用いた思考方法を紹介すると共に、上記の書籍自体を、小論文の世界そのものについて、フレームワークを用いて分析し、その対策案を立案するというやや変わった趣向で執筆した。

 このように、書籍そのものを問題解決のアプローチで執筆するのは私自身のスタイルの一つであり、私の書く本は各論本や体験談、ハウツー本ではなく、何らかの問題解決を問題解決学的アプローチで提案しているものが多い。(そして、各本がバラバラに独立しているのではなく、つながっている。)私のクライアントが短期間で成績を急上昇させる理由は、私がハウツーを教える代わりに問題解決のアプローチでクライアントの問題を解決するためである。

 特に慶應大学SFCは問題解決能力の養成を看板として掲げ建学の精神とするところから、小論文の入試においても問題解決能力を試す問題が出題されることが多い。そこで、問題解決学の世界で重視されるフレームワークを若い受験生に書籍を通じて伝授した経緯がある。



2 同業者が続々とフレームワークと言い出す

 その後小論文の添削サービス等を実施する事業者が続々とフレームワークを謳った教育サービスを提唱するようになる。
 フレームワークはどこかしら、「かっこうがいい響き」があるのか、多くの知識人が使いたがるきらいがある。戦略という言葉も同様である。しかし、そもそも戦略とは何か、フレームワークとは何かということを問うて、その答えがハッキリと出てくることは稀である。世界一の戦略立案企業と世界で評されるマッキンゼーと呼ばれる組織ですら、このような状況は以前見られたという。社内で当時日本のマッキンゼー社長であった大前研一氏が、社員に対して「戦略とは何か」と問うたところ、多くの社員が下を向いて答えることに窮し、この時に大前氏の雷が落ちたというエピソードがある。

 多くの人は戦略という言葉のかっこよさから、知的に見られたいという気持ちで安易に「戦略的」などという言葉を使いたがるが、実際には「戦略」という言葉が一人歩きを始めている。誰もが戦略と口にするが、実際に戦略とは何かという極めて根本的な問いにすら答えることができないことが珍しくは無い。フレームワークも同様である。

 フレームワークという言葉はかっこうがいいかもしれないが、言うまでもなく、かっこうがいいので使うというのでは、意味が無い。そもそもフレームワークとは何かという理解が無ければならない。ところが、ビジネススクールですら、フレームワークとはそもそも何なのかということはあまり教えられない。突然ある日特定のフレームワークを伝授されるか、学生が勝手に使い始め、自分の知性をアピールする材料となるのである。



3 フレームワークの種類

 フレームワークは思考の枠組みであるため、様々なフレームワークが存在する。経営学の世界では代表的なフレームワークには、3Cと呼ばれるものがある。3つ単語の頭文字を取り、3Cとする。例えば以下のような具合である。

・Customer 「市場」
・Competitor 「競合」
・Company 「自社」

 これらの3点に関する情報を集めることを通して、自社の状況を分析し、自社の優位性を客観的に分析する際に使用されることがある。
 この他にハーバード大学で提唱されたSWOT分析がある。分析の対象となる主体の4点を分析対象とする。同じく4つの頭文字を取り、SWOT分析と呼ばれる。それぞれの分析軸は以下の4点である。

 ・Strengths 「強み」
・Weaknesses 「弱み」
・Opportunities 「機会」
・Threats 「脅威」




次へ進む










ディジシステム HOME